ネットを支配する「シニシズム」「冷笑主義」という魔物の正体

ネットの論争が散々な結果に終わる理由
津田 正太郎 プロフィール

加えて、「動機の語彙」について説明しておくと、これは米国の社会学者チャールズ・ライト・ミルズによって提起された用語だ。「動機」は人間の心の内側にあるものとしてではなく、他者とのコミュニケーションのなかで語られるものとして捉えたほうがよいという発想に基づいている2

人間の心のなかはみえないし、そもそもつねに明確な動機に基づいて行動するとも限らない。それでも、たとえば殺人事件のように「なぜそれをやったのか」が大きな問題となることはあり、人はその動機を探そうとする。

〔PHOTO〕iStock
 

そこで重要になるのは、やった本人がどう考えているかではなく、周囲が「納得できる動機」かどうかだ。納得できない場合に周囲の人間が「ほんとうの動機」を無理にでも聞き出そうとすることもあれば、聞かれた側がたとえ本心ではなくとも納得してもらえそうな動機を語ることもある。

ただし、何が「納得できる動機」なのかは、時代や社会によって変わる。たとえば、現代の日本で殺人を犯した人物が「悪魔にそうするよう囁かれたからだ」と証言したとしても、多くの人は納得しないだろう3。もっと納得しやすい動機を探すはずだ。現代日本では宗教的な動機の語彙は多くの場合、説得力をもたない。

他方、中世ヨーロッパで魔女狩りが吹き荒れていた時代、異端審問官は拷問によって悪魔が出てくるような宗教的な動機を無理やりに引き出そうとしていたのである4

また、「納得できる動機」は、その行為をした人物に対してどのような感情を抱いているかによっても変わる5。たとえば、自分が好感をもっている政治家が人助けをしたとしよう。その場合、「困っている人を見逃せなかった」といった利他的な動機の語彙は受け入れやすい。しかし、それが嫌いな政治家であったなら「売名目的」「選挙対策」といったシニカルな動機の語彙のほうが説得的に思える。