ジャーナリストの河合蘭さんによる連載「出生前診断と母たち」。本連載は、日本における出生前診断の現状を伝えている。そこには様々な親や医療従事者たちの思いがあるが、出産に関して決断するのは当人たちだ。

出生前診断でダウン症の確率が高くても出産することを選んだ人もいる。出生前診断そのものを受けずに出産した人もいる。そして、ダウン症だということがはっきりわかって、産まない決断をした人もいる。大切なのは、親たちが誰かに指示されずに「自分で決断できるか」ということだ。

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「ダウン症である確率は2分の1」

依田恵美さん(仮名・30歳の会社員)は、通常の妊婦健診の超音波検査で、医師からいきなり「子どもに染色体異常があると厚くなるといわれている『NT』と呼ばれている部分が通常より厚い」と言われた。妊娠11週(3ヵ月)のことだった。

中期中絶のことなど何も知らないごく普通の幸せな妊婦が、いきなり、頭が真っ白になるようなことを言われたのだ。にもかかわらず、その時の医師の説明はごくあっさりしたものだったと恵美さんは振り返る。

「『はっきりしたことが知りたければ羊水中の胎児細胞を調べる羊水検査か新型出生前診断(NIPT)を受けるといい』と言われました。あとは、料金の話。それがすべてでした」

羊水検査が可能になる妊娠16週以降まで4週間もあった恵美さんは、インターネットを使って、自力で「胎児ドック」「絨毛検査」という、もっと早い時期にできる検査が存在することを知った。

恵美さんは、まず専門医を探して、胎児の詳しい超音波検査「胎児ドック」を受けたが、その医師は赤ちゃんの内臓、脳、骨などを丁寧に1時間ほどかけて診てくれた。最初に妊婦健診でかかった医師とは打って変わってこの医師は優しく、恵美さんの気持ちを察してくれた。

自らインターネットで探した胎児ドッグで丁寧に見てもらった 写真提供/依田恵美

しかし、恵美さんの赤ちゃんには心臓病をはじめ次々とダウン症の合併症が見つかった。検査中、ずっと泣き続ける恵美さん。医師は、涙をふくためのティッシュボックスを何度も差し出し、そしてこう言った。

「赤ちゃんがダウン症である確率を算出すると、2分の1くらいになっちゃうかな……」