2017年11月、82歳となっていた康夫さんは、特に大きな病気もせず、健康に日々を過ごしていたつもりでしたが、ある朝、台所で頭を抱え倒れこんだまま、病院へ運ばれ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。
突然の死に、絵里子さんは呆然とするばかりでした。
ところが、ここで意外な事実が発覚することとなったのです。
二人は、自宅の電気ガス水道などの費用を康夫さんの銀行口座から引き落としにしていたため、康夫さんの死によって口座が凍結され、引き落としができなくなりました。
そこで日常生活費に充てるため、その銀行口座を解約しようと絵里子さんは銀行へ出向きました。
しかしその時、絵里子さんは「相続人ではない方が預金の解約はできません」と言われてしまったのです。
そう、実は康夫さんと絵里子さんは50年に渡り内縁関係だったのです。
内縁関係であっても法律上の夫婦と同等の扱いをする、例えば社会保険の扶養など、そういった部分が増えてきましたが、法律上は、戸籍を入れていないと配偶者にはなれないのであり、つまりは相続においても法定相続人になれないのです。
つらい言い方をしますと、全く無関係の人、という扱いなのです。
逆に言いますと、たとえ亡くなる一日前にでも婚姻届を出して法律上婚姻関係が生じれば、立派に配偶者であり、法定相続人になれるのです。
法律上の夫婦と内縁の夫婦との決定的な違いは、実は相続において出てくるのです。
それにしても、絵里子さんはショックで打ちのめされました。康夫さんが店を開業して以来、半世紀にもわたって付き合いのある銀行です。
絵里子さんのことも「奥さん、奥さん」と言って、行員はみな顔馴染みなのに……。行員の何人かは康夫さんの葬儀にも駆けつけてくれて、絵里子さんを励ましてくれたのに……。