忘年会帰りに死ぬ人がいる…法医解剖医がどうしても伝えたいこと

溺死、喧嘩、交通事故…死は意外と近い
西尾 元 プロフィール

急性アルコール中毒で亡くなる人は少ない

お酒による事故というと、急性アルコール中毒のことを思い起こす人も多いだろう。アルコールは胃と小腸から血液に吸収された後、肝臓で分解される。肝臓で分解される速さ以上にアルコールを飲めば、血液のアルコール濃度は上昇する。それが一定の値を越えれば、急性アルコール中毒で死亡する。

実際に、急性アルコール中毒で亡くなった人を解剖したこともある。だが、法医解剖の現場の経験を言うと、急性アルコール中毒で亡くなった人を解剖することはほとんどない。これまでに3,000人くらい解剖したのだが、急性アルコール中毒で亡くなった人は10人もいないだろう。

飲酒後に亡くなって解剖されるのは、お酒を飲んだ帰りに、交通事故死したり、植え込みに寝込んで凍死したり、転倒したときの頭蓋内損傷で亡くなったりした人たちである。アルコール中毒で亡くなったわけではない。飲酒が間接的に死因に関与した人がほとんどなのである。

 

死体検案書を見てもわからないこと

解剖した後には、死体検案書を作成する。この書類の死亡原因を記入するところには、「お酒」「アルコール」「飲酒」などの言葉が記されることはない。

「溺死」や「凍死」、「頭蓋内出血」、「胸部轢過」といった言葉が並ぶだけだ。死体検案書を見ても、お酒が死因に関係しているとは気づかない。だが、実際には、お酒を飲んだ後に亡くなった人たちは、お酒を飲んでいなければ亡くなることはなかった。その意味では、お酒が死因に関係していることは明らかなのである。

お酒で亡くなる人は、一般の人が考えているよりはるかに多い。急性アルコール中毒で亡くなる人の数よりずっと多くの人がお酒のせいで亡くなっている。法医解剖医には、それがわかっている。