『宇崎ちゃん』ポスターは「女性のモノ化」だったのか?

「性的対象物」という問いを考える
江口 聡 プロフィール

「性的モノ化」とはなにか?

女性を「性的対象物」として描くこと、あるいは「性的モノ化」「性的客体化」などと訳されている言葉と概念は、フェミニズム思想の最重要キーワードの一つだ。

この言葉は英語では”sexual objectification” であり、男性が支配的な社会においては、女性たちが性的な「オブジェクト」、すなわち単なる物体(モノ)として扱われているということを指す。現代社会においては、男性は「能動的な主体」であるのに対し、女性は「受動的(受け身)な客体」であり、眺められ触れられるモノとされている、という発想である。

この「性的モノ化」という概念は、性表現や性暴力の問題を論じる文脈で頻繁に使われてきたものの、そのままではぼんやりした概念である。

2016年に京都賞を受賞した哲学者のマーサ・ヌスバウム氏の代表的な業績の一つに、この「性的モノ化」という概念を分析した論文がある。彼女によれば、「性的モノ化」という概念は、実は複数の要素を複合したものだ。

 

「モノ化」一般、すなわち「人をモノとして扱う」という表現で意味されている主要なものの一つは、(1) 他人を道具・手段として使用するということだ。

たとえば、奴隷制度は人を単なる道具として使うことであり、それゆえに不正だということは直感的にわかりやすい。だが、私たちが生活の中で、他人を「手段として」使うこと自体は避けられない。私たちはいたるところで他の人を商品やサービスを手に入れるための手段として使っており、また他人に使われてもいる。

当人が給料や待遇や人間関係などの点で納得して、自発的に使用されるのならば問題がない。不正なのは、他人を「単なる」手段として使うこと、つまり当人の意思を無視して、手段として使うことだ。

さて、ヌスバウム氏によれば、この「他人を単なる手段として使う」という発想から、他のさまざまな「モノ化」の問題点が生じる。

それには、対象となる人の(2) 自己決定を尊重しない(3) 主体性・能動性を認めず常に受け身の存在と見なす(4) 他と置き換え可能なものと見る(5)壊したり侵入したりしてもよいものとみなす(6)誰かの「所有物」であり売買可能なものであると考える(7) 当人の感情などを尊重しない、といったさまざまな面が見られる。