子どもが黒い絵を描くように
住んでいたマンションは佐弓さんの父親の名義だったので、佐弓さんと息子はそこに戻
った。それまで父親に払っていた家賃は免除してもらえることになり、それはとても助かった。借金取りは「離婚したので、もう関係ありません」と言ったら、来なくなった。
当時、息子は幼稚園に通っており、保育園に変わることは本人が泣いていやがったので、佐弓さんは午後2時半までの仕事を探した。幸い、知人の紹介で条件の折り合う仕事に就くことができた。少しずつ生活は落ち着いていった。
「子どもにもきちんと説明しなければと思いました。それで、パパとママは仲良しでなくなってしまったからバイバイしたい、と伝えました。そうしたら、パパが大好きだった息子は、いやだ、仲が悪くてもいいから一緒にいてほしい、と。
離婚はもう決めていたので、子どもの意見で取りやめるつもりはなかったんですが、納得するまで向き合おうと決めて、それから毎晩、寝る前に子どもとディスカッションしました。子どもなりに毎日、いろんな案を考えて『同じおうちにいるけれどお部屋は別々にしたらどう?』などと言っていましたが、最後には泣きながら、バイバイしてもいいよ、と言ってくれたんです」
とはいえ息子は、頭では納得したものの心ではまだ葛藤が続いていたとみえる。幼稚園にひとり親家庭は佐弓さんのところだけだったこともあり、「みんなにはパパがいるのにぼくだけいない」という状況は、子ども心に辛かったようだ。黒い絵を書くようになり、夜泣きも増えた。このままでは、息子の心が壊れてしまう。息子をパパに会わせよう。佐弓さんは、元夫にメールした。
「息子はあなたに会いたがっているし、あなたも息子に会いたいでしょう。そろそろきちんと離婚条件を決めませんか」