「離婚した元夫は、とにかくやさしい人でした。人柄はいいと、いまでも思いますね」と言うのは、14年前、3歳だった息子を連れて離婚した丸山佐弓さん(仮名・53歳)。離婚後も元夫との仲は良好で、毎年恒例の家族旅行は、息子が17歳になるいまでも続けている。「今年はお金がないから行けないよ」と言えば、佐弓さんの旅費まで出してくれる。先日、佐弓さんが引っ越した際は、男手が必要だろうと手伝いに来てくれた。――そんな「いい人」と佐弓さんは、なぜ離婚したのか

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離婚について長く取材を続けてきたライターの上條まゆみさん。多くの夫婦を見てきたが、丸山佐弓さんのように離婚後も仲が良い「元・家族」は多くない。しかし、いまこれほど仲良しであっても、佐弓さんが離婚を決断するまでには、壮絶な苦悩があった。それは「お金」の問題だった。

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妹の障害も受け入れてくれた夫

佐弓さんと元夫は同じ年で、29歳のとき友だちとの飲み会で知り合い、30歳で結婚した。

「私はもともと結婚する気がなかったんです。妹に軽い知的障害があり、一人暮らしはできるけど完全に一人では生きていけないので、親に言われたわけでもないのに将来は私が面倒を見る、と勝手に決めていたんですね。そういうことを全部受け入れてくれる人じゃないと結婚できないし、無理かな、って思っていました。でも、それを元夫に話したら、彼は一生懸命考えてくれて、将来、妹さんと一緒に住んでもいい、と言ってくれたんですよ。そこまで言ってくれる人はいなかったので、ありがたいな、と思って結婚を決めました」

当時、佐弓さんは短大を卒業してから2社目の会社でやりがいを見つけ、いきいきと働いていた。元夫も大手企業勤めで、同年代のなかでは高給を得ていた。

「子どもはまだいいね」「しばらくは二人で楽しみたいね」。結婚しても独身時代とさほど変わらず、自由に時間とお金を使う。当時の流行りの言葉で言えば、いわゆるDINKS。夫婦で、友だちと、外食も夜遊びも頻繁に。正月、ゴールデンウイーク、お盆の長期休みは二人で海外旅行に出かける生活。

「楽しく暮らしていたんです。私の父親にも元夫は可愛がられていて、思えば幸せな時代でした」

住居は佐弓さんの父親の持ち家を安い家賃で借りていた。稼いだ分ほぼ自由に使える環境だったのだ Photo by iSotck