心が死んだとき、足の痛みだけが、
生きていることを実感させてくれた

彼女にとっては、“踊ることが生きること”。その生きがいを奪われて、『生きるって何だろう?』という、大きな大きな壁にぶち当たった。頭の中が真っ白になって、目の前は真っ暗だった。

「日本に帰ってからも、頭がぼーっとして、何もやる気が起きませんでした。周りから見たら、引きこもりみたいだったでしょうね。でも、不思議なことに、足の痛みだけが、“生きてる”ってことを実感させてくれた。足が痛くて、泥のように重くて。『おかしいな、なかなかよくならないな』って思っているうちに、ようやく、これが現実なんだとわかったんです」

そんな暗黒の時代にも、彼女の心に清々しい風を送り込んでくれるものとの出会いがあった。舞台である。

撮影/岸本絢

「バレエとはまた違うけれど、役者さんたちが肉体と言葉を使って、ステージ上で躍動している姿にワクワクしました。『こんな世界があるんだ!』と、心だけじゃなくて体もビックリして(笑)。舞台上で起こっていることにグイグイと引き込まれていくのを感じました。ステージの活気がザワザワと肌を通して伝わってきた。無気力だった自分の心がどんどん元気になっていったんです」

舞台の魅力に気づき、小さな劇場の作品にも積極的に足を運ぶようになった。

「それまで知らなかった、日本の作家や演出家の方たちのオリジナル作品に、特に心を惹かれました。漠とした悩みや葛藤を抱える登場人物が、ぶつかったりすれ違ったりするお話だったりして、観た後に、『あれはどういう意味なんだろう?』とか、想像を掻き立てられる。シェイクスピアのように王様やお姫様が出てくるわけじゃないから、それぞれの登場人物が抱えている苦悩も、こじらせているというか、結構ややこしいんです(笑)。

でも、そのややこしさに、私はつい思いを馳せてしまう。バレエは、ステージを見て、誰もが“キレイ!”って感動しますけど、その美しさの影には、どれだけの努力があったか。どれだけ体を酷使してきたか。自分が挫折を経験したせいか、人前に立つ人が積み重ねてきた過去の重さを、無条件で尊敬してしまうところがあります。バレエでも、オペラでも、歌舞伎でも、ミュージカルでも、ストレートプレイでも、一つの作品に物凄い熱量が注がれていることは同じだなって思ったんです」