ビッグデータが切り開く、中国の「超先進IT社会」と「超監視社会」

利便性は「絶対服従」の入り口か?
野口 悠紀雄 プロフィール

便利さと管理社会化のどちらをとるか?

中国では、「顔認証や信用スコアリングはよいことだ」と考えている人が多いようだ。本当にそう考えているのかどうかはわからないが、少なくとも、そのように報道されている。

中国は、これまで人を信用することができない社会だった。だから、信用スコアリングが導入されれば、社会が透明化される。

このため、それが国家による管理に使われるという面に対する警戒心が、あまりないのではないかと思われる。

信用スコアリングが広がれば、悪い人がいなくなり、良い人が得をするのだという。

 

もちろんそういう面はあるだろう。しかし、「良い、悪い」が、どのような基準によって判断されるかが問題なのだ。

反政府的な意見を持つ人のスコアが低くなることは、十分に考えられる。

そうなれば、中国共産党への絶対服従を確実にするための社会監視制度になる。

ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた「ビッグブラザー」の世界だ。

欧米では、顔認証や信用スコアリングはプライバシーの侵害や人種差別を助長するとして、規制強化の方向に動いている。

欧州連合(EU)が2018年に施行した「一般データ保護規則(GDPR)」は、顔データは特別な保護が必要な「生体データ」であるとして、取り扱いを厳しく制限した。また、「プロファイリングされない」権利が認められるべきだとしている。

アメリカでは、サンフランシスコなど4都市が、警察など公的機関による顔認証システムの利用を制限すると決定した。

しかし、顔認証や信用スコアリングなどが今後、我々の生活のさまざまな場面に広がっていくことも間違いない。

それらがもたらす便益とプライバシー保護のバランスをどう取るかが難しい問題だ。

ローマ共和国型の民主主義社会と、中国型の官僚国家。これは人類の2つの大きなパラダイムだ。世界がこのどちらに向かうのかは、誰にとっても重大な問題だ。

人類の行方に関する重大問題だとも言える。

香港のデモがどう決着するかは、この問題の行方を示す1つの試金石とも考えられる。