「イートイン脱税」は、なぜ私たちをこんなに「ムカつかせる」のか?

進化心理学が暴く「ムカつき」の論理
Ore Chang プロフィール

「お人好し」が生き残れない理由

進化心理学者のロバート・クルツバンによれば、モラル(道徳心)の起源は〈他人の行動を規制したい〉という心理の進化に見いだせる

われわれは、他者と〈意図を共有〉できる動物だ。たとえば、強いボスザルがワガママな行動に出た際、それを弱いサル同士が協力することで「規制」することができる。そうした「規制」こそがモラルの原型だというのである。*5

──どういうことだろうか。クルツバンは、“生殖”を例に出して説明する。

 

進化の論理では、上手く異性を獲得し、子孫を多くもうけた個体の心理形質だけが生き残っていく(当然ながら、異性を獲得できない個体は子孫を残せない)。しかし、人々が〈意図を共有〉できる人類の社会では、圧倒的に強い特定の個体だけが異性を独占している状況を、そうでない個体がただ指をくわえて見ているというだけでは済まない。そのような状況が続くことを、多くの個体は許さないのだ。

“ 繁殖成功度という意味での生物の状況は、生殖に関するルールの如何によって、向上したり悪化したりする。ここで、人類も他の霊長類同様一夫多妻制をとり、「もっとも有能な」男性が、複数の女性を手にし、相手が一人もいない男性が大勢出現したとしよう”

“ その場合、能力の劣る男性は皆、一夫一妻制を遵守させるルールに深く決定的な関心を抱くであろう。そのようなルールが規定された社会では、能力の劣る男性でも、うまくやっていけるはずだからだ”(ロバート=クルツバン著 『だれもが偽善者になる本当の理由』より)

お分かりだろうか。モラルとは、「他人がやりたがっているXという行為をさせたくない」という、ある意味で“利己的な”感情が、互いに互いを縛り合い、制限しあった結果として進化的になんとか成立した側面が大きいものなのだ

これはいわば、サッカーには手を使うことを禁じる「ハンド」というルールが設定されているのと似ている。

進化とは自然淘汰であることを思い出してほしい。「他人には手を使うプレー(=ズル)を認めるが、自分には手を使うプレーを禁ずる」というルールに同意する傾向を持つ人は、明らかに不利になる。したがって遺伝子生存競争に敗北し、淘汰の憂き目を見てしまいやすい。

では、「他人が手を使うプレーは禁止するが、自分だけが手を使うのはオーケー」と考えるような人はどうだろう。

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──じつは、行動経済学者のダン・アリエリーも示しているように、人目がなければ、誰もが少なからず、そういう「ズルい」振る舞いをする傾向を持ち合わせている(遺伝子生存競争において有利になるので、そのような傾向が進化している)。*6