「イートイン脱税」は、なぜ私たちをこんなに「ムカつかせる」のか?

進化心理学が暴く「ムカつき」の論理
Ore Chang プロフィール

人間は「イカサマ」に敏感な生き物だ

進化心理学独特の考え方がそろそろみなさんにもご理解いただけたことを願って、本題の〈「イートイン脱税」にムカつくという感情〉を分析していこう。

サピエンスの心に搭載されている基本的な感情システムには、すべて独自のファンクション(=機能)が備わっていると述べた。つまり“ムカつき”も、生物学的な起源から生じている可能性が高い

イートイン脱税にムカついている当事者たちがSNSでよく口にしていた言葉といえば、「ズルい」「もやもや」「ルール違反」「正直者が馬鹿を見る」「一人だけ得するのは許せない」といったフレーズだ。

 

進化心理学の知見からみると、これらは明白に、サピエンスが有する社会的な感情システムの一つ〈正義心〉と、「ズル検知システム」=〈公正/欺瞞モジュール〉が作動している結果のように思われる。

進化心理学的なアプローチから道徳心理を研究している社会心理学者のジョナサン・ハイトは、膨大な調査から、われわれサピエンスには「6つの道徳基盤」が進化していることを突き止めている。

ハイトによれば、道徳心には「甘さ」「辛さ」「酸っぱさ」のように進化によって生じた「味覚」がある。〈公正/欺瞞モジュール〉もその一つである。*3

さらに、いまや進化心理学の世界では古典的な研究とされているが、トゥービー&コスミデスは、サピエンスの認知が「ズルを見抜く」能力に非常に長けていることを「四枚カード問題」を使った実験によって示している。

論理的には同内容・同難易度の問題であっても、〈ルール違反しているヤツを見つけだす〉という形式で出題された時だけ、約2割だった正答率が約7〜9割にまで跳ね上がるのだ。*4

その他多くの研究からも、どうやらわれわれサピエンスという種は、他者の不正行為(ズル、ルール違反、イカサマ)を見抜くのが非常に得意であるらしいことがわかっている。

なぜサピエンスは、そのように進化したのだろうか? それは、われわれ人類が数百万年にもわたって過ごした太古の部族社会において、ながらく「モラルゲーム」を遂行してきた動物だからである。