「イートイン脱税」は、なぜ私たちをこんなに「ムカつかせる」のか?

進化心理学が暴く「ムカつき」の論理
Ore Chang プロフィール

なぜ人は「寂しがる」のか?

さて、それでは「感情」について考えていこう。お待たせして申し訳ないが、本題である〈「イートイン脱税」にムカつくという感情〉について検討する前に、まずは分かりやすいところから始めることにする。

たとえば、「寂しさ」という感情はなぜあるのか。この感情システムはなぜ、われわれサピエンスの心に “搭載” されているのだろうか。

進化心理学では以下のように考える。

 

アフリカのサバンナに暮らしていたわれわれの祖先は、生きのびるためには同族からなる社会集団とのつながりを保たなければならなかった。

サバンナ環境で孤立し、一人ぼっちになってしまうことは“死”を意味した。だからわれわれサピエンスは、孤独を文字通り「死ぬほど」恐れる、極端な「寂しがり屋」の動物として進化した。

なぜなら、一人ぼっちでも寂しさを感じない個体よりも、一人ぼっちを寂しいと感じる個体の方が、統計的に生存・生殖に有利だったからだ。

もちろん現代社会においては、孤独になったとしてもただちに命の危険に晒されるわけではない。しかし、この過去の── 一人ぼっちになると死んでしまうという──生息環境に適応した心のデザインを、現代人のわれわれも受け継いでいる。

だから、いまでもわれわれは周囲から孤立した際はつらく感じ、昔馴染みの友人に連絡したり、所属集団を変更したり、SNSに居場所を探したり、「誰かとつながる」ことを一番に考えるようになる。

われわれの心は、いまだに数十万年前のサバンナにいるのだ。

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(注:進化心理学では、ノーベル医学生理学賞受賞者のニコ・ティンバーゲンが概念化した「至近要因と究極要因」という生物学の枠組みから、人間心理に関する「なぜ?」を考える。たとえば「孤独はなぜつらく感じられるか?」という問いには大きく二通りの答え方があり、至近要因からの返答は「脳の背側前帯状皮質という部分が活性化するから」、究極要因からの返答は「つらく感じない個体は淘汰されたから」となる。進化心理学では、こうした「なぜ」の理由を神経-生理メカニズムにもとめるのでなく、そのメカニズム自体が存在する理由を、進化というプロセスにもとめる)