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亡くなった子の「未来」を祀る、東北の風習をヒントにつくった小説

小川洋子の新作『小箱』インタビュー

強烈に惹かれた「ムカサリ絵馬」

―小川洋子さんの今作『小箱』は、全編を通じて喪失と衰微の匂いが色濃く漂う、ある種のディストピア小説ともいえる作品です。

生きている子供が一切登場しない町で、人びとは早逝した我が子のために思い思いの品を丹精込めて用意し、専用のガラスケースに納めていく。供物と呼ぶのはためらわれるような、なまなましい感情が込められたモノがずらりと並ぶ光景はどこからやってきたのでしょう。

未婚のまま若くして亡くなった我が子が死後の世界で結婚できるよう、婚礼の様子を絵に描いてお寺に奉納する「ムカサリ絵馬」という風習が東北のほうに実際にあるんです。

地方によってはガラスケースに花嫁・花婿人形が奉納されていて、中には玩具や文房具、はては大人の証である煙草や車の模型が一緒に納められることもある。そこにはとにかく「死んだ後でも子供を育てたい」という、親としての底知れない思いの強さがあるんですね。

現地でそれを見たとき、人間の究極の喪失感が凝縮されているのを目のあたりにした気がして。強烈に惹きつけられたことが小説の執筆につながりました。

―一般的には故人の遺品や当時の好物だったものを納めるのが「供物」ですが、この場合は亡くなった子供が成長していく姿を見越して必要となるものを適宜選んだり手づくりしたりしているという。

 

そうなんです。つまり彼らは「過去」ではなく「未来」を納めているんですよね。そういう発想ができるのも親の愛のなせるわざだなあと。加えて、どの品も絶妙に素人っぽい手つきで拵えられているというか。そのたどたどしさ、素朴さがいっそ物哀しくて胸に迫るんです。

あれらはすべて、ただただ喪った悲しみと向きあうためのものであって、報酬を求めない美。自分の小説世界と響きあうものがありました。