「一時的うつではない」

「とにかく何か食べよう」
しかし食材がない。買いに行こうかと言うと、母はバッグを手にした。そして、冒頭に書いた行動を繰り返したのだ。

財布、お札、レシート、小銭。

延々と繰り返される動作を見て、これは「一時的なうつ状態」ではない、と思い至った。

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花火大会の開始時間が近づいていた。料理を作る時間はないので、食材は後回しにすることにし、近くのスーパーであれこれ買って夕飯にした。

いつもの年と同じように、暗い河川敷に向かった。堤の上は、見物客でいっぱいである。堤防の斜面にレジャーシートを敷いて座ろうとした瞬間、母がバランスを崩して転げ落ちた。さほど急でもない斜面で、踏ん張ることができなかった。年の割に足が丈夫なことを自慢していたはずなのに、母は両手をつくこともなく、ころころと転げていく。私と娘が慌てて駆け下り、二人で押し留めた。

Photo by iSotck

この落ち方は尋常ではない。そういえば、さっきから足の踏み出し方がおかしかった。ろれつも回っていない。脳梗塞だろうか。近くで、脳梗塞の検査や診断ができる病院はあったか? 2004年。携帯電話はまだガラケーの時代である。知りたいときに知りたいことが調べられず、頭の中で良くない考えが渦巻いた。花火を楽しむどころではない。すぐに実家に帰った。

実家に一晩泊まり、母の食事を用意。作れないときにはちゃんと食べ物を買うようにと伝えた。