早く遊びに行きたかった

でも小学生だった私には、そんな大人の事情なんてわかりっこありません。Aちゃんの家に行くときは早く遊びたいので階段を通ってショートカットし、Aちゃんの家から自宅に帰るときは、灯りが多い坂道を通る。なんとなくそのようにしていました。

その日は秘密基地で採取した雑草を持ち帰り、Aちゃんの家の庭で冠を作ったり木の実を並べたりして遊んでいました。すっかりおしゃべりに夢中になっていて、帰宅の合図として街に流れる18時のチャイムにも気づかなかったのです。

Aちゃんのお母さんが仕事から戻り、「早く帰らないとお母さんが心配するでしょう。お母さんに迎えにきてもらおうか」と言うので、私は「迎えにきてもらう間に走って帰った方が早いよ。夕飯の支度で忙しいだろうし」と答え、泥まみれになった手を洗って、Aちゃんの家を後にしました。

Photo by iSotck

普段ならもうお風呂に入る時間になっていましたから、早く帰らないといけません。そこで、もう日が暮れてはいましたが、近道である階段の方へと向かいました。

階段へ向かう道中でふと後ろを見てみれば、20メートルか30メートルか後方に、男の人が歩いているのが見えました。細身で背が高く、黒い服を着ています。たしか、ポケットに手をいれていました。

もう夜にもなろうかという時間、普段人がいない場所だということもあって、なんとなく距離を取ろうと小走りで家を目指します。

少しして振り返ってみれば、その男はまだ後ろにいました。それも、さっきより近い距離に。そのうえ、私が振り返った瞬間、駆けていた足を止めたようにも見えました。

言いようのない薄気味悪さを感じた私は、階段を2段飛ばしで駆け上がって、家路を急ぎます。