希代の神学者・阿部仲麻呂が説く「フランシスコ教皇訪日」の意味

全国行脚する伝道師がみる哲学的な意味
阿部 仲麻呂

核兵器のない世界を作り上げる「戦い」

いのちを守る——広島・長崎・福島 [聖家族、平和]
 教皇フランシスコは「いのちを守る」指導者です。

2013年3月19日に行われた教皇就任後の最初の公的なミサの説教では参列者に対して「聖家族になること」が勧められていました。

二千年前の聖ヨゼフと聖マリアが協力してイエスを育み、慈愛深く相手をおもいやる姿勢で温かい家庭を築いたことが「聖家族」のイメージとしてキリスト者の家庭の理想像とされています。

教皇はそれぞれの家族を励ますばかりではなく、地球全体をひとつの家として理解し、人類全体を神の子どもたちの集まりとして眺めています。

「地球という家に住む人類家族」という発想は、先ほども紹介した『ラウダート・シ』という公文書にまとめられています。この公文書は地球環境の尊さを見直すために書かれました。

地球という共通のふるさとに住んでいる全人類は、それゆえに大きな一つの家族です。教皇フランシスコは自己中心的な生き方を厳しくいましめます。金銭欲にもとづく富の独占や権力欲がエスカレートするのは、自分さえよければ、という自己中心的な姿勢によります。

人間が自己主張して自分だけの利益のこだわるときに、経済格差や身分差別が生じます。そのような状況で生きる人間たちの共同体としての国家が、他の国家と競争し、利益を奪い合うときに戦争が起こります。

 

特に、日本は戦争の惨禍を経験し、人類史上初の核兵器の惨禍をこうむりました。広島と長崎に落とされた計二発の爆弾によって市民たちが一瞬にして殺戮されたばかりか、現在でも後遺症に苦しむ数多くの関係者がおります。

教皇は核兵器の悲惨さを、身をもって経験している日本人に対して平和を目指す使命を呼びさまそうと望んでいます。

教皇は日本人に対して積極的に平和運動をするように呼びかけます。二度と核兵器を使用しないように、そればかりか核兵器を製造しないように、と明確に語るほどに教皇は人類全体の家族関係の実現を力説するのです。

阿部仲麻呂神父(あべ・なかまろ)
1968年、東京都出身。神学博士(基礎神学、三位一体論、教父神学専攻)。日本カトリック神学会理事、日本宣教学会常任理事、日本カトリック教育学会理事。福岡・東京両カトリック神学院、桜美林大、上智大兼任講師。主著『信仰の美學』他多数。全国の教会で、伝道活動に勤しんでいる。

さて、イエスとマリアとヨセフという二千年前の「聖家族」は移動者であり難民でした。

彼らはパレスチナのふるさとを追われてエジプトに亡命しました。神の子であり人類を救う王の権威をおびた者とみなされることになるだろうイエスの活躍を想定して、おびえていたヘロデ王は自分の権力を保持しようと画策し、イエスと同年代の赤ん坊をことごとく殺害する命令を発しました。

自己中心的な権力欲に燃えたヘロデ王によって数多くの幸せな家庭が破壊されました。

教皇は聖書の聖家族の物語を現代の移民や難民の苦労とも重ね合わせます。教皇の出身もイタリア系の移民であるので、ふるさとを失って異国の土地で生きることの大変さを身にしみて理解できるのでしょう。

彼の六年にわたるこれまでの教皇職の主要な仕事が移民や難民の生活を支えるための外交政策だったのは、イエスをめぐる家族の物語を出発点としています。

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