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40歳のやくざライターは「暴排条例は完全に人権蹂躙」だと言った

「ロスジェネ」は何を失ったのか
40歳、フリーランスのライター、正規雇用なし、未婚――就職氷河期ど真ん中を経験した主人公の「僕」は、出版社の元同僚、73歳のカンタローさん(カンちゃん)と大学の同級生でやくざライターの小野と居酒屋で飲みながら、小野からある依頼を受けることになり……(小説『ロス男』より特別公開!

居酒屋でカンちゃんとメニューを見ていたら、大学の同級生である小野から連絡が入った。

僕が電話に出ると小野は言った。

「いまから一杯やらないか?」

互いにしがないライター稼業で、独身同士とくれば、年に一度くらいの誘いも、こんなふうに雑で刹那的なものになる。

「いまカンタローさんて先輩編集者と店に入ったばかりだけど、来る? 大門の居酒屋」

「行く。二十五分後」

僕は電話を切り、カンちゃんに告げた。

 

「二十五分後に学生時代の同級生が来ます。小野と言って、やくざライターをやってる男です」

「へえ、やくざライターって初めてだな。どんな人?」

「どんなと言われると――」

僕は学生時代、いつも地味なネルシャツとチノパンを着ていた小野の姿を思い返した。仲間うちでも苦にもされず、褒められもせず、それでいて飲み会や徹夜麻雀には最後まで付き合う男だった。カラオケへ行っても人の歌を黙って聴き、「お前も入れろよ」と言われた時だけスピッツなんかを歌う。

「見た目はひょろっとしてて、陽を浴びてないカイワレ大根みたいな奴です。大学を出てからシステム・エンジニアをしていたのですが、今を去ること十年前、三十歳で突如やくざライターに転身しました」

「それは思い切った選択だね」

「ええ、みんなびっくりしましたよ」

僕らは暗黙の了解のうちに、どうせ小野はそこそこの女と結婚して、そこそこのSE生活を続けていくんだろうな、と思っていた。今から思えば余計なお世話もいいところだけど。