クラシック音楽時代の特徴として、音楽理論が飛躍的に整理されると同時に、楽器自体が目覚ましい進化をとげたことが挙げられます。
楽器が進化するということは、すなわち音が安定し、音域が広がり、演奏技術が豊かになる、といったことを促します。また、楽器が進化するにつれて、合奏用としてオーケストラに迎え入れられるようにもなりました。
当初は室内楽の編成のように小規模な、あるいは少数の楽器による合奏だったのが、楽器の数が増えることで、オーケストラを構成する人数が増加していきます。

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その大所帯に演奏してもらおうと、こんどは作曲家たちが腕を競うように次々と新しい交響曲を発表していきます。
さらには、当時の、腕に覚えのある演奏家たちが自身の技術を際立たせるために、あえてテクニックをひけらかすかのような難解な曲を書いていくようになったのです。ピアノでいえばショパンやリスト、バイオリンならパガニーニなどがその代表格でしょう。
慣れた和音に「飽き」が来た
さてこの時代、新しい和声学や新しい楽器のために、多く の作曲家たちが無数の曲を書いていきますが、やがて時の経過とともにパターンが定着してくると、慣れ親しみすぎた和声法と和音を使うことに徐々に辟易するようになっていきます。
そのような雰囲気のなかで、19世紀にはワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』やドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」などに代表されるように、「不協和音をわざと入れてやれ!」とばかりに和声学を無視した曲構成が展開しはじめます。
さらに、20世紀に登場したストラヴィンスキーの『春の祭典』やバルトークの「弦楽四重奏曲第4番」など、和声学を崩壊させた曲作りが世の中に発表されていき、いわゆる現代音楽の時代の幕開けとなるのです。

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特にドビュッシーは、「ジャズの父」とよばれるほどに、音楽に新たな和声の切り口を提案しました。そして、そのドビュッシーの影響を強く受けたモダンジャズを代表するピアニスト、ビル・エヴァンスが「和音の転回」という手法を駆使しはじめたことで、モダンジャズはいよいよ盛んになっていくのです。
ジャズの世界で不協和音が積極的に使われるようになる前夜、じつはクラシックの作曲家たちによる革新が先行しておこなわれていたという事実には興味深いものがありますね。
ポップスやロックは、じつは「伝統的」音楽だった
21世紀の現在、私たちが日々耳にしているポップスやロックミュージックは、いったいどんな理論に基づいて作曲されているのでしょうか?
意外に思われるかもしれませんが、かつてクラシックの巨匠たちが「もう飽きた!」と一蹴した「和声学」に基づいているのです。