ほんわかとした癒し系の笑顔と、朝ドラやラブコメでのコメディエンヌぶりが印象深い貫地谷しほりだが、新作『夕陽のあと』(越川道夫監督/11月8日より公開中)では、貧困やDVが原因で自分の赤ちゃんを捨ててしまった女性・佐藤茜に扮し、その演技力が話題を呼んでいる。

茜は自分の人生を立て直した後、息子に会いたい一身で息子が里子として育てられる漁村に移住する。初めは息子・豊和(松原豊和)の傍にいられるだけで幸せだったのが、子供と一緒に暮らし始めたいと思うようになり、息子を養子縁組しようとしている山田真歩演じる里親・日野五月と激しく衝突する——。

産みの母と育ての母。2人の母がぶつかり合い、葛藤を乗り越え、それぞれに成長していく様子を美しい九州の長島を舞台に描いた本作は、貧困、DV、妊活、里親や養子縁組制度など、現代社会においてもっと積極的に議論されるべきテーマに切り込んだ社会派人間ドラマだ。

今年9月に一般人男性との結婚が発表されたばかりの貫地谷しほりが、本作を通じて改めて考えた、母になること、とは。

貫地谷しほり

写真:岡田康且

この映画に出演することを迷った

——壮絶な過去をもつ佐藤茜という役を演じるにあたり、「私だったら……」という気持ちを捨てて撮影に挑んだそうですね。

貫地谷しほり(以下、貫地谷):私は子供もにいないし、頼れる家族もいるし、自分がフラットな気持ちで茜を演じられるかどうか……この映画に出演すること自体、悩みました。でも、「分からない」で済ませたくなかった

白黒をつけたり、善悪で語ったりすると佐藤茜がどうしても悪者になってしまう。でも、彼女はひょっとしたら私たちの隣にいる普通の人なのかもしれない。自分の考える“良い・悪い”で彼女を演じるよりも、彼女がそのときに感じているものをそのまま映し出したかったんです。

茜は息子の傍にいたくて同じ漁村で暮らし始めますが、実は、赤ちゃんの彼を手放してしまった瞬間から、彼女の時間は止まってしまっていた。だから物語の最後に、彼女は母親としての一歩をやっと歩き始め、人間として少しだけ強くなった——そんな思いで撮影にのぞみました。

『夕陽のあと』より