中国で広がる顔認証のシステム、その利便性と「潜在的危険」

「超監視社会」が現実のものに
野口 悠紀雄 プロフィール

警察に使われれば「超監視社会」が実現しないか?

ところで、顔認証決済の利用には、事前に自分の顔写真をスマートフォンに登録し、顔決済サービス提供企業に提供する必要がある。つまり、顔情報という貴重な個人情報が、企業に渡るわけだ。

顔情報が自動支払いや店の無人化に使われるだけであれば、問題はないだろう。しかし、そうした利用に限定される保証はない。

中国では、2017年に「国家情報法」が施行した。これによって、国家の安全保障を脅かすと判断された場合、政府は企業から情報提供を受けることが可能になった。中国政府はこれを根拠に、さまざまな個人情報を企業から入手していると言われる。

 

パスワードなら変更できるが、顔情報は変更できない。だから、顔情報を用いれば、政府は監視カメラなどで捉えた個人を正確に特定できるわけだ。

中国では、すでに約2億台の監視カメラが全土に張り巡らされているという。これと顔情報データベースを連動させれば、犯罪者だけでなく、あらゆる国民の動きや居場所などを正確に把握し、監視することが可能になる。「超監視社会」が実現する危険があるわけだ。

これは、すでに現実化しつつある。中国の警察当局は、顔認証技術を用いて人混みなどで容疑者を発見できるハイテクのスマートグラスを導入している。

このサングラスにはカメラが付いており、容疑者と思われる人物の顔を撮影すると、警察本部のデータベースとの照合がなされる。データベースには、容疑者の氏名、性別、住所、民族などの個人情報が保存されており、撮影された人物が逃亡中なのかどうかも即座に判別する。

このシステムを用いて、南昌市に開かれたコンサートに集まった5万人の群衆の中から、警察官が犯人を発見、逮捕に至ったというニュースが報道された。

日本では、2018年のハロウィンで、軽トラックを横倒しにした容疑者を逮捕するまでに1月余りかかった。中国なら瞬時に捕まってしまっただろう。

空港では、乗客確認のために利用され、鉄道の駅では人身売買を行なう犯罪者を見つけるために用いられているという。また、街角で交通違反をすると、即座に警告が出るという話もある。

中国本土への抗議デモが行なわれている香港では、参加者がマスクや帽子を着用している。監視カメラで行動を監視されないようしているのだ。