「ポリファーマシー」患者の4割超が、不要な薬を飲んでいる

検査とクスリの3割はムダです(後篇)
山田 悠史 プロフィール

もちろん「ポリファーマシー」を抱える方の中には、医学的にどうしてもそれほど多くの薬剤が必要だという方もいるだろう。

しかし、必ずしも全ての方が必要な薬だけを飲んでいるというわけではなく、実際に、ポリファーマシーを経験している方のうち、4割を超える方が一つ以上の不要な薬を飲んでいることが報告されている(※3)

医師は往々にして、足し算はできても引き算が難しい生き物だ。処方を追加するのは簡単でも、一度処方された薬を止めるのがとても難しい。

これは、薬を自分が止めて何か起こったらどうしよう、という保守的な心境を反映したものなのかもしれない。「その薬を続けていて副作用が起こったらどうしよう」というよりも、「これまで大丈夫だったのだから大丈夫だろう」と考えるのかもしれない。患者さんにとっては、本当に無責任な話だ。

 

不要なのに継続されやすい薬

このような状況に対し、Beers基準と呼ばれる指針が1991年に誕生している。Beers基準には、不要にもかかわらず継続されやすい薬のリストがまとめられている(※4)

(Beers基準 例)
不眠症に対して、ベンゾジアゼピン系(1)の睡眠薬は避けるべき。
慢性の痛みに対して、NSAIDs(2)と呼ばれる痛み止めを漫然と使うのは避けるべき。

1 ベンゾジアゼピン系の薬剤は古くから使われてきたいわゆる「眠剤」である。現在では、より安全な睡眠薬が開発されてきているが、高齢者世代では、当時それしか薬がなかったため、若い頃から使い続けている「ファン」も多い。
2 ロキソニンや「イブ」に含まれるイブプロフェンなど生理痛や頭痛に使われる痛み止めがNSAIDsに含まれる薬である。とても身近な薬だが、漫然と使用すると、腎臓や胃腸に障害を受けるリスクがあるため、危険である。

この Beers基準を用いた薬を中止する運動は、徐々に米国で広がりを見せている。老年病内科と呼ばれる高齢者を対象とした診療科が中心となり、数多くの薬を飲んでいる高齢者に対して、チェックリストを用いた診療を行っている。

このチェックリストは、「この薬は現在の患者の状態を考えて本当に必要か?」「副作用リスクが、有益性を上回っていないか?」という質問に答えていくというものだ。

これを用いて、薬のリストを毎回の外来で見直したところ、なんと58%もの薬が不適切に処方されていることが明らかとなり、そのうちの81%の処方が中止されたと報告されている(※3)

また、このような活動にあたっては、薬の必要性の見直しを啓蒙する教育が行われ、患者の理解を少しずつ得ていったことも忘れてはいけない。
 

日本の医療を成長させられるか

では、日本でこの問題を解消していくためにどうすればいいか。

もちろん同じことを試してもいいが、例えば、日本には「お薬手帳」の文化がある。これをアプリにして、電子カルテと連携することで、医師は簡単に毎回の外来で見直しができたり、いずれは人工知能が不要な薬にアラートを出してくれたりするかもしれない。

広く実践するために、人材不足の日本ではIT化の助けが不可欠である。実現できない夢ではないが、そのためには、まず一人一人がそのような問題意識、共通認識を持つことが必須になるだろう。

日本でも、2016年にChoosing Wisely Japanが設立され、米国同様の活動が始まった。しかし、十分浸透しているとは言いがたく、医師の仲間に聞いてみても、知っているひとは少ない。一般の方に至っては言わずもがなであろう。

限りあるお金で、これからの日本の医療を成長させられるか。国民皆保険を守り続けられるのか。この課題は、今を生きる私たちにこそ突きつけられている。

医療の世界に広がる「根拠のない習慣」。その存在を知り、医師に一任せず、医師と話し合って賢明な選択をする。そんなことを一人一人が身近なところから、考えていかなければならない。

<参考文献>
(※1) Qato DM, Wilder J, Schumm LP, Gillet V, Alexander GC. Changes in Prescription and Over-the-Counter Medication and Dietary Supplement Use Among Older Adults in the United States, 2005 vs 2011. JAMA Intern Med [Internet] 2016 [cited 2019 Nov 10];176(4):473–82. Available from: http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?doi=10.1001/jamainternmed.2015.8581
(※2)Tinetti ME, Bogardus ST, Agostini J V. Potential pitfalls of disease-specific guidelines for patients with multiple conditions. N Engl J Med [Internet] 2004 [cited 2019 Nov 10];351(27):2870–4. Available from: http://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMsb042458
(※3)Garfinkel D, Mangin D. Feasibility study of a systematic approach for discontinuation of multiple medications in older adults: addressing polypharmacy. Arch Intern Med [Internet] 2010 [cited 2019 Nov 10];170(18):1648–54. Available from: http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?doi=10.1001/archinternmed.2010.355
(※4)American Geriatrics Society 2019 Updated AGS Beers Criteria® for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults. J Am Geriatr Soc [Internet] 2019 [cited 2019 Nov 10];67(4):674–94. Available from: http://doi.wiley.com/10.1111/jgs.15767

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