「抽象的」を嫌う数学者、「埋もれない入門書」づくりの戦略を明かす

「ビール」をヒントにタイトル考案!?
斎藤 恭一 プロフィール

最後の1つについても、定年退職した現在の私から回答できる。

「退官する頃には気力も体力も、ひょっとして知力も落ちていて、勢いのある本なんて書けはしないぞ!」と若い先生に忠告したい。

「具体的」な数学を伝えたい

無名の助教授の本を売り込むには特徴が必要だ。幸いなことに、私の担当科目「移動速度論」は、化学装置を設計するために、現象を定量化する、言い換えると数式で表すための学問だ。身の回りで起きている現象を数式化するにも使える学問なのである。だからと言って、数式を作って並べていっても、とっつきにくい。

数式の羅列はとっつきにくい…… Photo by iStock
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「数学はイメージとのキャッチボールだ」ということをどこかで教わった! 私の原稿には、ふんだんにイラストを入れた。当時、仕事仲間であった吉田剛さんにイラストをお願いした。吉田さんはプロ顔負けの、手抜きをしないイラストを作り上げた。最終的に刷り上がったブルーバックスでは総ページ数200に対して55枚のイラストが載っている。

私がつけた本のタイトルは『スーパーウェット数学入門』であった。当時、『スーパードライ』というブランドのビールの売行きが絶好調だった。スーパードライは「とても乾いた」、数学で言うと「抽象的な」という意味だと勝手に解釈した。

Photo by Getty Images
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私は抽象的な数学がわからない。大学に入って数学が嫌いになったのはこの抽象的な数学のせいである。そこで、この対立語として『スーパーウェット』という語を造り出した。「具体的な数学」ならイラストが数式に寄り添える。

『スーパーウェット数学入門』というタイトルなら、無名の著者という不利を補って、本は順調に売れるだろうと考えたが、その案は却下された。

 

それまで本を出したことがなかった私は、本のタイトルは著者が決めるものと思い込んでいた。しかし、本が売れようが売れまいが責任を一身に引き受けるのは編集長であり、タイトル決定権が編集長にあるのは当然だ。

イラスト満載な新刊もどうぞ!

さて、『道具としての微分方程式』の弟分として、このたびブルーバックスから『道具としての微分方程式 偏微分編』が刊行された。

今回、イラストはプロの武曽宏幸氏に依頼した。東京メトロ日比谷線・中目黒駅のホーム、北海道函館・湯の川温泉、ナマズのマラソン大会、ウルトラセブン似のラプラス・セブンなどなど、ページ狭しとイラストが登場する。是非、本屋さんの店頭で手に取って〝観〟てください。

『道具としての微分方程式 偏微分編』
するする読めて、なっとくできる《偏微分「超」入門》!
身近な現象から偏微分方程式を作り、解いて、味わう。数式のもつ物理的な意味がみるみるイメージできるようになり、読み終わる頃には「使える」ようになる。
研究・開発の現場で偏微分を使いこなしてきた著者が、ユーモラスにていねいに解説。
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