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かぜを引いただけで、医師から119錠もの薬が処方されるとは……

検査とクスリの3割はムダです(前篇)
医師が処方する薬の3割はムダ、かぜを治癒する薬はない、薬を飲まない選択肢も考えてみよう――米国内科専門医の資格も持つ医師の山田悠史氏が、医療の世界はブラックボックスであるがゆえに、私たちはつねに気を付けなければならないと警鐘を鳴らす。
 

処方される薬の3割はムダ

病院にかかり、医師に「この検査をしましょう」と言われたら、あなたはどう答えるだろうか? おそらく多くの方が、反射的に「お願いします」と答えてしまうのではないか。

日本にある多くの病院では、1時間も待ったあげく、外来の所要時間は5分間。まともな説明もないまま、検査項目が決まっていくことも少なくない。それがあまりにも自然で、おかしいとも思わないかもしれない。

米国で行われた、心臓の検査を受けた人々へのアンケート調査がある。この結果によると、検査が何のために行われたのかを理解していたのは全体の17%、検査で異常と出た場合、どうなるのかまで答えられたのは11%だったそうだ。さらに、検査の合併症について知っていたのはたったの4%に過ぎなかった(※1)

実際に私自身も、患者さんに他の病院で受けた検査について尋ね、「よく分からないが、こんな検査を受けた」というようなぼんやりした答えが返ってくるという経験をよくしている。その患者さんはただ言われた通りに検査を受けただけなのだ、ということを痛感させられる。

しかし、専門家である医師が計画した検査なら、信頼して良いのではないか。そう考えるのも無理はないが、自分自身の身体をすべて任せてしまえば良いかといえばそうでもない。

別の調査によると、「医師が計画する検査の約3割が無駄なもの」という事実が報告されている(※2)無駄な検査は、利益をもたらさないばかりか、一定の確率で合併症を生み出す。様々な検査によって合併症の被害を受ける確率は、平均で10-15%程度と試算されている。

また、たとえ目に見える合併症がなくても、検査結果によって不安を感じるなど心理的な影響も少なからず受けるもの。それが本当に無駄な検査だったら、ただ心労が募るだけだ。

そして、これは検査に限らず、治療のために医師が処方した薬さえも約3割はムダだといわれている。

医療経済を圧迫している側面も見逃してはいけない。米国では、ムダを全てなくすことで50億ドル(5000億円以上)の医療費削減につながると推定されている。

ムダな医療は何も生み出さないばかりか、その医療を受けた方の1割に被害を出し、5000億円をドブに捨てているということだ。

「かぜ」を治癒する薬はない

あなたの身近にも実際に起こっている診療のムダを考えてみよう。

例えばあなたがかぜをひいたとしたら、病院を受診するだろうか? それとも、薬局でかぜ薬を買ってきて、自宅で休むだろうか?

かぜはとても厄介な病気で、大人が普通に生活をしていても1年で平均2回ほどかぜをひくと報告されている(※3)米国での試算では、かぜによって年間2300万日もの社会人の欠勤を招いていると報告されており(※4)、社会的な損失の大きさがうかがえる。そして、この損失を減らすため、これまでかぜの研究に億単位の投資が行われてきた。

そんな身近な病気である「かぜ」をひいたとき、多くの場合は、自身でも「これはかぜだ」と経験則で分かると思う。

それでは、病院を受診したところで治療は変わるのだろうか?

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残念ながら、答えはノーだ。新元号で盛り上がる2019年。iPS細胞やゲノム解析がニュースを賑わせても、こんなにもありふれた「かぜ」という病気の根本的な治療は見つかっておらず、かぜの治癒を導く薬も、治りが早くなる薬も、何ひとつ証明されていない。

さらに言えば、ビタミンC を代表とするビタミン剤やエナジードリンクなどのサプリメントが有効とする根拠もない(※5)

「クリニック経営の健康」のため?

それならば、なぜ私たちはかぜ薬を使うのだろう?

それは、かぜを治すためではなく、かぜの症状を軽くするためだ。もし医師や薬局の薬剤師、あるいはあなたの友人が「〇〇という薬が最もかぜによく効く」「薬はかぜのひきはじめに飲むと治りが早い」という話をしていても、そのセリフには根拠がない。

ただしこれは、あなたの経験則から「このかぜ薬が最も有効だ」ということを否定するものではなく、少なくとも、あなたの経験則を他人にあてはめて「この薬は効くから試すといいよ」と公正に勧めることはできない、ということだ。

では、なぜ医師は根拠がないにもかかわらず、平然とかぜ薬を処方するのか?