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人工呼吸器ユーザーは台風をいかに生き延びたか

避難計画も「緩和ケア」
川口 有美子 プロフィール

一方、嵐の前の静けさというが、実家の1階1間を借りている訪問介護事業所のほうでは、台風上陸前後の土日のヘルパーのシフト変更に追われていた。

うちの事業所は現在20名の重度身体障害の人にヘルパーを派遣している。ALS、筋ジストロフィ、小児慢性疾患、脳幹梗塞の後遺症などで、常時の見守りが必要。ほぼ全員が人工呼吸器を装着していて、緊急避難は簡単ではない。ベッドから車椅子への移乗も2人以上の介助がいる。なんとかして家の外の歩道に担ぎ出せたとしても、暴風雨の中、車椅子での避難は無謀だ。

そもそも人工呼吸器とバッテリー、吸引機は身体と一体化して常時必要だし、エアーマットレスがなければ体が痛くて眠れない。酸素濃縮機、カフアシスト(肺に強く空気を送り込み、咳を促して痰を出させる機械)、パソコンなどの意思伝達装置一式、それに日用品でもある衛生や食事(経管栄養)に必要な物品も入れたら、赤帽1台分くらいの引越し荷物になってしまう。

 

「災害時は自助努力で」?

これまでは、大地震による倒壊、火災、停電、断水などを想定して災害対策をしてきた。2011年の東日本大震災以来、全国的に障害者の震災対策は進んだ(はずだ)が、台風が巨大化して家屋が壊れるような風が吹き、河川が氾濫して人が亡くなるような規模の土砂崩れや浸水が襲ってくるなどということは、少なくとも関東の介護事業者は想定していなかったのではないだろうか。

災害時の個別避難支援計画も震災を想定して作られていたから、保健師さんの訪問を受けて個別に計画されていても、ほぼ全員が同じように自宅待機を推奨されていた。最低3日分の電気と水と食料、最低1週間分の薬や衛生用品などを準備しておくこと。よほどでない限り病院には逃げ込まないこと。多くの自治体が、どこも動かせない患者にも自助努力を要請してきた。

箱根の男性ALS患者の避難対策会議でも、自宅待機してほしいと保健師に言われた。もし土砂崩れの避難勧告が出たら、すぐそばの国立病院ではなく、遠くの避難所に行くようにとまで言われて、訪問看護師と介護事業者(の私)は戸惑ったというより腹立たしくなった。

いったいどうやって暴風雨の中、一般避難所にたどり着けというのか。避難警報が出てからでは遅いのだ。あとで国立病院に電話してみたが、ソーシャルワーカーが出てきて、みんなが避難してくると病院がいっぱいになってしまうと言う。それでも人工呼吸器が必要な難病患者は、病院で引き受けてほしいのに。

災害時は自助努力で、と言われても、実際のところ、患者本人には何もできない。結局はその場に居合わせた家族や事業所ヘルパーの力量にかかっている。急ぎヘルパーのシフトを確認すると、暴風雨が強くなり出す土曜の夜に出勤するヘルパーが数名いる。