公募では、退職する前任者は選考には関与できないのが一般的だ。前任者が選考に直接関わると、当然ながら前任者に関係する人物が有利になることが考えられるからだ。もしも教授が自分が育てた人物を後釜に据えたいのであれば、最初から公募しなければいいだろう。
こうした情報を聞いたAさんは、公募に対して強く不信感を持った。
選考の結果選ばれた人に対して、特に異を唱えるつもりはない。しかし、なぜ自分が書類選考の段階で落とされたのか、どうしても納得がいかなかったのだ。
「採用の自由」を理由に…
とはいえ、大学が選考の結果について、応募者に明かすことはない。Aさんも一応問い合わせてはみたが、「採用の自由」を盾に「選考のプロセスは明らかにできない」の一点張りだった。
関係者によると、前任者の関与については、同じ早稲田大学の中でも大学院によって温度差があるという。アジア太平洋研究科の規程は、選考委員会への前任者の出席に関しては、読み方によっては「可能」とも受け取れるあいまいなものだった。
どうしても自分が書類選考で落とされた理由を知りたいと思ったAさんは、知り合いの教授と相談して、2016年12月、労働組合東京ユニオンの早稲田大学支部を立ち上げた。労働組合として大学と団体交渉に臨み、選考のプロセスを質したいと思ったからだった。
早稲田大学は東京ユニオンの求めに応じ、これまでに団体交渉が2回開かれた。しかし、話し合われたのは非常勤講師の待遇についてだけ。東京ユニオンは公募の透明性の確保を要求したが、大学側は公募については「団体交渉の事案ではない」という態度で、交渉に応じようともしなかった。