恐るべし!秀喜の底力

Photo by iStock

秋に石川国体が行われるため、それに合わせて金沢市民球場ができた。9月1日、その杮落としで、石川県内の選抜選手と韓国の代表チームとの親善試合が行われることになった。この試合で監督をまかされていた山下は秀喜を外していた。先発オーダーに秀喜の名前はない。

しかし高野連(高等学校野球連盟)から、「松井を4番にしないと韓国に勝てない。入れてほしい」と、野球部長にクレームがはいった。部長はすぐに秀喜に、「監督に謝らないと、おまえ4番打たしたらんよ」と伝えた。


秀喜はすぐに山下のところへ行った。

「監督、すみませんでした。僕一生懸命やりますから。お願いします」
「よし、じゃあおまえを4番にするわ。その代わり打てよ」
「はい。監督、ここのグラウンド初めてですよね」
「初めてや」
「まだホームラン打ったことありませんよね」
「誰もいないぞ。打ったら記念にボールを球場に飾ってくれるというから、名誉なことだな」
「ぼく打ちますから、打ったらそこにいるメンバー全員にステーキをご馳走してくれますか」
「いいよ」

山下は韓国のピッチャーは球が速いので、
――打てるわけない。 と、たかをくくって気安く約束をした。


ところが初回、フォアボール、デッドボール、フォアボールのノーアウト満塁で秀喜の打席、なんと打球はセンターバックスクリーン左の場外に消えた。

――あいつ本当に打った。


山下は簡単に秀喜の賭けにのったものの、その時財布に5万円しかないことに慌てていた。

――選手20人連れて行くとどれだけ食うかわからん。

体の大きい、しかも食べ盛りの選手20人にステーキをご馳走することを考えていると、試合は勝っているが野球どころではなくなっていた。その気配を察した部長は、

「監督、心配するな。野球やれ。今みんなから、お金をカンパしてもらうから。勝ったら石川県のチームで海外のチームを初めて負かすことになるから、責任もって集めてくる」

と言って、山下に野球に集中するように言った。

山下は高校1年生のときから、このようなことを堂々と言い、実際にやってのける秀喜に末恐ろしさを感じていた。