「ヒトラー」とは一体何者だったのか、その正体

「ニヒリズムの革命」に備えよ
佐藤 優 プロフィール

ニヒリズムを「破れかぶれ」、「やけっぱち」、「場当たり的」と翻訳しているのは実に見事だ。

哲学用語をこのように皮膚感覚で理解できる言葉で訳すことができるのは、舛添氏が知識人であるとともに政治の修羅場で、「破れかぶれ」、「やけっぱち」、「場当たり的」になる人を少なからず見てきたからと思う。

 

現下の日本では、人生の目的や生きる価値を見出すことができず、「破れかぶれ」になっている人が少なからずいる。このような人たちを糾合することができるカリスマ的リーダーが出てくると、ニヒリズムの革命が日本でも起きる可能性がある。

大衆は論理では動かない

ヒトラーは、大衆は論理ではなく、シンボル操作で動くと考えていた。

〈「ゲシュタポの掟だけでは足りない。大衆には偶像が必要だ」とヒトラーは喝破します。その偶像を作り出すために、数々のシンボルが多用されます。

その代表例が、ナチスが党のシンボルとして党旗などに採用した鉤十字(ハーケンクロイツ)です。政権獲得後の1935年にはドイツ国旗になりますが、デザインの専門家によると、これはシンボルとしては秀逸であったようです。

共産主義のシンボルカラーである血の色の赤地に、鉤十字を白丸の中に黒地で入れ、しかも、鉤十字を45度傾けてあります。これは、躍動感と不安感を与える「絶妙の選択」です。そのことを強調するグラフィック・デザイナーの松田行正は、ヒトラーを「クリエイティヴ・ディレクター」だと断言します。

鉤十字は、欧米の国粋主義者のシンボルマークでしたが、これをナチスのようなハーケンクロイツにしたのは、政治シンボルとしては最高の出来映えであると述べます。

松田は、ハーケンクロイツと1964年の東京オリンピックのポスターを比較します。グラフィック・デザイナーの亀倉雄策がデザインし、世界的に評価されたポスターです。日の丸が配された下に、金一色の五輪のマークがあり、さらにその下に「TOKYO 1964」と書かれただけのデザインですが、日の丸だけで東京五輪のポスターであることが誰にでもすぐ分かります。

1964年の東京オリンピックのポスター(パブリック・ドメイン)

ハーケンクロイツも同様で、それを見ただけでナチスのシンボルだということがすぐに理解できます。たとえば、フランス、ロシア、オランダの国旗は、青、白、赤の三色を組み合わせてあり、縦縞と横縞があります。日本人で、正確にこの三国の国旗を描ける人はほとんどいないと思います。ハーケンクロイツはナチスドイツだと皆知っています〉

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