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「ヒトラー」とは一体何者だったのか、その正体

「ニヒリズムの革命」に備えよ

極めて病的な思想

舛添要一氏の『ヒトラーの正体』は、ヒトラーに関する様々な学術研究を踏まえた上で、一般向けにわかりやすく書いた優れた入門書だ。書き出しが巧い。

〈いきなりクイズです。

オリンピックと言えば、開催国の国民が参加し、国中の期待感を高める聖火リレーが思い浮かびますが、これを考案したのは誰でしょうか。

サラリーマンの皆さんは、毎月の給料から税金が天引きされますので、自分で面倒な計算をして申告し納税する必要がありません。これが源泉徴収制度です。年末に勤め先から「源泉徴収票」という葉書くらいのサイズの一枚紙をもらいますので、皆さん、よく知っていると思います。これを考案した人は誰でしょうか。

ヘリコプターは、今では災害救助や緊急取材などでも不可欠な存在ですが、これを世界で初めて実用化したのは、誰でしょうか。

三問とも、答えは本書の主人公であるヒトラーです〉

2016年リオデジャネイロオリンピックの際の聖火リレー(Photo by gettyimages)

ここからもわかるようにヒトラー時代のナチスドイツで考案された制度が現在も残っているのだ。しかし、このような制度を残したからといって、ナチズムを肯定的に評価してはならない。このようなテクノロジーをもたらした背景にあるヒトラーの思想が病的だ。

舛添氏は、ナチズムにおけるニヒリズムの革命の要素に着目する。

〈ニヒリズムというと、「虚無主義」などと訳される難解な哲学用語で、ニーチェの名前が出てきたりして、何か敬遠したくなるような言葉です。ヒトラーの独裁、ナチスの運動を「ニヒリズムの革命」などと言われると、よく分からないなという感じが先立ちます。

 

「虚無(ニヒル)」というのは、真理も価値も道徳も「何も無い」、「空っぽ」という意味で、厭世的な気分を指しますが、私は、ナチズムとの関連では、ニヒリズムとは「破れかぶれ」、「やけっぱち」、「場当たり的」と訳したら分かりやすいのではないかと思います。

私たちは、ある目標があると、それに向かって生き生きと前進していきますが、逆に、人生の目的、生きる価値などがなくなったら、どうなるでしょうか。自暴自棄になり、物を破壊したり、他人に当たったり、まさに「破れかぶれ」といった状況に陥ります。それがニヒリズムなのです〉