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浪人生活、貧乏暮らし…万城目学『鴨川ホルモー』の誕生秘話

万城目ワールド「誕生前夜」を訊ねた

連載を決めたきっかけは

―『べらぼうくん』は、『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』などで知られるベストセラー作家・万城目学さんの自伝的エッセイです。

エッセイを週刊連載で書かないかと依頼された時、最初は断ったんですよ。書くからには、質を担保したい。けど、毎週毎週ネタを見つけて、面白い話が書けるかというと難しいですから。

面白いエッセイって、「うまくいかない話」だと僕は思うんです。人の成功談や自慢話を聞いてもつまらない。反対に、他人の挫折や失敗って、どこか可笑しさがある。しかし、コンスタントにそんなネタは出てこないだろうしなぁ……と渋っていたら、編集者から「では、デビュー前の万城目さん自身の話を書いたらどうでしょう」と提案されて。「ああ、それならうまくいかない話の連続や」と連載を決めました。

作家という夢はあれども心の底では「働くのは嫌だ」と思っている無職の男が、悩んだり酷い目に遭ったり、悪戦苦闘する日々。これなら読者の好感度も高いでしょう(笑)。

 

ちょっと真面目なことを言うと、僕は就職氷河期ど真ん中のロスジェネ世代です。この世代が、自分たちの時代をどう生きていたかを書き記したい気持ちもありました。

―万城目さんは大阪出身。大学受験に失敗した、浪人時代からエッセイは始まります。

失敗の経験が人間を作るとすれば、僕が人間になったのは浪人生の頃ですね。現役で受けたセンター試験の点がなまじ良かったせいで油断が生まれて、通天閣の傍にある成人向け映画館で酒臭い地元のおっさんたちに囲まれてピンク映画を見たりと、余計な時間を過ごしてしまった。大阪らしい楽しい思い出ですけど、そら落ちるわなと。

万城目学さん

浪人時代は「なんで生きているのか」と自分を見つめ直しました。予備校の現代文の先生と合わなくて、授業時間を「新潮文庫の100冊」を読むことに使った。あの読書体験は、作家になった今も大きいですね。

―1浪の末、見事京都大学に合格。『鴨川ホルモー』でも描かれた京都での大学生活が描かれます。

実際に僕が送った大学生活は、あんな楽しいもんじゃなかったんですよね(笑)。同じく作家の森見登美彦さん、そして僕が京都の大学生活をあたかも素晴らしいものとして小説にしてしまった。たしかに、あの学生を大いに甘やかしてくれる街で、親元を離れたモラトリアムを過ごすことは人生にとって魅力的です。でも実際の学生暮らしはそこまで美化されるものではなかったです(苦笑)。