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10年で3000冊を読破した新聞記者、厳選の「ヤバいの本」

記者としての人生を決めた3人の作家

もしも、出会えていなかったら…

小学生の頃から図書館や書店に入り浸る「書籍の子」でした。その後、高校から大学院修了までの10年で3000冊の本を読みました。大学院の時、下宿の部屋の片側に本を積み過ぎて建物が傾き、下階のふすまが開かなくなって、大家さんに怒られました(笑)。

気に入った作家の作品を何度も読み返すタイプで、青年期は開高健、向田邦子、近藤紘一の著作を偏愛しました。この3人の作家に出会えなかったら、今と違った人生になっていたでしょう。

3人に共通するのは、日常の中で戦争を描いたこと。人間の命や生活を根底から破壊する戦争に、子どもの頃から関心がありました。また3人は若くして亡くなってもいる。命の有限性についても教えてくれました。

 

どれも大好きで本当に選び難いので、1位から3位までは、それぞれの代表作にしました。

開高健は遺作『珠玉』所収の「掌のなかの海」が素晴らしいですが、最初に高校の時に読んだ『輝ける闇』を挙げます。ベトナム戦争をテーマにしたフィクションですが、これ以前に開高健は自身が新聞の臨時特派員としてベトナムに赴いた時のことを『ベトナム戦記』というルポルタージュで書いています。同じ素材を『輝ける闇』では小説にしている。

書き手となった今でこそよくわかりますが、ルポで書いた素材を、小説に起こすのは相当難しく、本人も悩んだはず。でも、それほどベトナム戦争での体験が凄まじかったのでしょう。「書く」のではなく、「書かされている」作品です。

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物語のテーマや構成などに注目されがちですが、開高健は言葉一つ一つを吟味し、通常はその文脈で使わない言葉を巧みに用います。誰にも真似できない文体です。

戦後の日本文学を振り返った時、いずれ「戦後は開高の時代だった」と言われるのではないかと、僕は考えています。こんな作家は、もう出てこないでしょう。

僕は大学院時代に、1年間休学して世界を放浪したことがありますが、ネパールの宿にたまたまあった英語版の『輝ける闇』を再読し、化学の研究者から新聞記者へと人生の進路を変更しました。そういった点でも、思い入れの深い本です。