5月30日の『日本経済新聞』の夕刊一面トップに「被災地支援 株主と協力」という見出しの記事が載った。
株主と協力するというのだから、企業が何かをすることだというのは想像が付いたが、筆者は、この見出しを見ただけでは、一体何をするというのか具体的なイメージが湧かなかった。
記事の本文を読むと、以下のようなケースを指していることが分かった。
たとえば、日産自動車は、これまで株主総会の後に開いていた株主とカルロス・ゴーン社長ら経営陣との懇親会(1000人規模なので、会場費をはじめそれなりの費用が掛かる)を取りやめて、その経費を被災地の復興支援に役立てるという。
読者は、この決定を聞いて、どう思われるだろうか。
筆者は、被災地に支援金を送ることには好印象を持ったものの、そもそも、この会合がどうして例年行われていたのかが不思議に思えた。
株主と経営者の懇親会は、日産自動車の企業価値に何をもたらすのだろうか。
経営者から株主に対する情報提供の機会が増えて、株主が会社のことをよりよく理解するということだろうか。こじつけ気味だが、投資家が会社をよりクリアに理解して、株式に要求するリスク・プレミアム(リスクを補うに足る超過リターン)が縮小して株価が上昇する効果をあくまでも可能性ベースだが考えることができる。
しかし、それなら、被災地への支援金はそれ自体として支払う一方で、株主と経営陣との懇親会も例年同様に行うことが、株主にとっても経営者にとっても好ましいことではないか。
この種の懇親会について、企業の経営者は、株主の疑問や意見を知ることが経営の参考になるなどと、(いかにも)言いそうだ。これが、経営者にとって、本当に普通には得難い価値のあるメリットなら、この場合、懇親会を中止することは経営改善のチャンスをみすみす逃すことになる。
5月までに総会を開いたマックスバリュ東海や船井総合研究所も株主懇親会を取りやめて、その経費を被災地への義援金としたという。
こうしたケースで、各社は、被災地支援を理由にイベント中止を決定したわけだが、そもそも、例年のイベントがコストに見合う価値のないものだったのではないか、という疑問が湧いてくる。
想像するに、懇親会の多くは、立食パーティーのような形式となるので、震災後の自粛ムードが残る今日、批判を恐れてイベントを中止して、コストを被災地への支援金に振り当てることを、総務ないしIR(インベスター・リレーションズ。投資家向け広報)の担当者が思いついて提案したのではないか。
筆者は、各社の誰がこうした提案を行ったのか全く存じ上げないが、これらの提案者は、例年の株主との懇親会が、経営上、その経費と自粛のメリットの合計を上回る意味のあるものではないと見切って提案を行ったことになる。
正直なところ、筆者もこの意見に同意するが、サラリーマンの職場を考えると、これは、実はなかなかスリリングな状況であり、他人事ながらどきどきするものだ。
他の例も見てみよう。