井原藍子さん(仮名・49歳)は昨年春、20年を超える結婚生活に終止符を打ち、大学生になったばかりの一人息子を連れて家を出た。離婚を考え始めてから10年、修復の試みはすべてやり尽くしたと感じたうえでの決断だった。

「私たち夫婦の問題の根本には、それぞれが育ってきた環境のなかで刷り込まれてきた考え方のクセがある。どちらだけが悪いということではなく、どちらも加害者であり被害者なんです。それを全部理解したうえで、それでも子どもと自分のこれからの人生をどうしようかと思ったときに、やっぱり離れたほうがいいと思った。その結論を出すまでに10年かかったということです」

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ライターの上條まゆみさんは長く離婚の現場を取材してきた。そこで驚くのが、「パートナーを見下す人」「子どもを支配したい親」の多さだ。特に優秀とかエリートと呼ばれる男性のそんな状況を目の当たりにしてきた。今回上條さんが話を聞いた井原藍子さんはまさにそういう「支配的」な夫に苦しんでいた。

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「リーダーシップがある」はずが

藍子さんと元夫は、藍子さんが20歳のときに、アルバイト先の喫茶店で出会って付き合い始めた。元夫は1つ年上でリーダーシップがあり、みんなをとりまとめている姿に頼もしさを感じた。

「実は、付き合っているときから、え? と思うことはあったんです。男尊女卑な考え方とか、プライドが高くて見栄を張るところとか……。でも、私自身、生まれ育ちのせいか自己肯定感が低くて、相手に依存していたんでしょうね。別れたら次はないみたいな思い込みがあって、気になるところは見ないように蓋をしていました」

そうして交際は続き、その間に元夫は経理マンとして商社に就職。その後、藍子さんも一般職でメーカーに就職。25歳で結婚した。

子どもを力でねじ伏せたい夫

はじめは共働きをしていたが、29歳で出産後、一旦は職場復帰したものの、子どものアトピーが酷くなって仕事は辞めた。藍子さんは専業主婦となった。

夫婦間に波風が立ち始めたのは、その頃だ。元夫には元夫なりの子育ての方針があり、それが藍子さんとは違っていた。藍子さんは、子どもであってもその意思を尊重したい。元夫は自分の父親が母親に暴力をふるって従わせる姿を見て育ってきたせいか、力でねじ伏せてでも親の言うことをきかせたい

「たとえば、子どもの習い事にしても、『俺が空手をやっていたから、お前もやれ』と息子に押し付ける。息子は元夫とは全然タイプが違うので、格闘技は好きじゃなくて、苦痛で苦痛で仕方がない。しかも元夫が勧めたのは実戦空手だったので、息子はよく『ぼくは人を打ちたくないんだよ』と泣いていました。でも、それをお父さんに言うと叱られる。それで私が代わりに『嫌みたいなんだよ』って伝えると『お前はそうやっていつも子どもの言いなりになる』とか『俺を否定するのか』みたいな感じになってしまい……」