論争は終わらない…「揺さぶられっ子症候群」と虐待のあいまいな関係

想像を絶する家族の苦悩と子どもの無念
美馬 達哉 プロフィール

「揺さぶられっ子症候群」のはじまりと終焉

脳の出血や腫れで突然死する赤ん坊はそれなりの数で存在し、ときにはその原因となる骨折や傷やアザなどのはっきりした怪我が見当たらないことがある。

そんな場合には、首の筋肉が未だ弱い赤ん坊が強く意図的に揺さぶられたことでむち打ち症のように大きく頭が揺れて、頭蓋骨の中にある未熟な脳と血管がひどく傷つけられる可能性があると英米で言われ始めたのは1970年代だ。

英米での一部に子どものしつけとして罰の代わりに強く揺さぶる習慣があるとの話もあるが本当かどうかはよく分からない。

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こうした考え方を1991年に初めて日本に紹介した小児科医の伊藤昌弘は、虐待とまったく関係の無い「乱暴なとりあつかい」の育児(たとえば空中に投げて受け止めたり、急に逆さまにしたり)が原因になることもあるとして「揺さぶられっ子症候群」との日本語にしている(『揺さぶられっ子症候群と子どもの事故―小児救急外来の現場から』大月書店)。

もともと日本で救急診療に携わる脳外科医の間では、とくに生後6〜10ヵ月の男児がつかまり立ちから転倒したなど家庭内での軽微な事故の後に、けいれんや意識障害を起こして脳の出血が見つかる場合が多々あることが知られていた(中村I型の頭部外傷)。

 

家庭内のちょっとした事故でも子どもは頭部外傷になり得るので注意して問診するようにと、私も医学部時代に学んだ記憶がある。

つまり、家庭内の事故=不運、乱暴な育児=グレーゾーン、児童虐待による揺さぶられ=犯罪、という連続した頭部外傷のスペクトラムが「揺さぶられっ子症候群」だったわけだ。

だが、2000年代、このタイプの頭部外傷は、殺意を込めた「揺さぶり」を強調した正式名称として「乳幼児揺さぶられ症候群」へと変化した(1)。

(1)米国では、1980年代に児童虐待を予防しようとする政策が強力に推し進められた。だが、その実態は貧困者やマイノリティの家族をターゲットとする差別的なものとして批判され、マスメディアではSBSえん罪事件が大きく取り上げられた。その結果、すでに1990年代後半には、SBS=児童虐待とする考え方への反省期に入っていた。

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