〔PHOTO〕iStock

150年前の日本人はどんな「性情報」を得ていたか、常識の大転換

オナニー有害論、男女産み分け…

若者の「性」は爆発したのか

最近、『青少年の性行動はどう変わってきたか』(林雄亮編著、ミネルヴァ書房、2019)という、興味深い書物を読んだ。

日本性教育協会(現在、一般財団法人日本児童教育振興財団内日本性教育協会)が、1974年から、ほぼ6年おきに計7回実施した「青少年の性行動全国調査」のデータを、気鋭・中堅の社会学者が再分析した好著である。

筆者も駆け出しの頃、日本性教育協会には、資料収集でお世話になった。こうした全国調査が継続的に実施され、再分析に開かれていることは、日本の学術界にとって、貴重である。先人たちの努力に、敬意を表したい。

〔PHOTO〕iStock

それはさておき、本書のはしがきに、興味深い資料が引用されている。

それは、第1回「青少年の性行動全国調査」に先立つ1972年、総理府(当時)が刊行した『青少年の性意識』冒頭の一節である。

 1970年代には「性」が爆発的にはんらんするであろうとの予測がなされていたようである。フリーセックスが流行しているといわれ、若者の不軌奔放の性行動が問題になった。(中略)性に関する情報は、活字や電波その他のメディアによって青少年にいやというほど浸透し、閉ざされた社会のタブーをことごとく明るみに出しつつある。(総理府青少年対策部編『青少年の性意識』1972年、1頁)
 

草食系・絶食系男子が流行語となり、性に関心を持たない、セックスレス男女の増加が叫ばれる現代とは、隔世の感ありというべきか。

いや、ここはむしろ、編者の林氏が述べるとおり、「2018年から約半世紀前の記述にも、驚くほど現代と共通した認識があることがわかるだろう。そこには若者の性について漠然と問題視する見方があるうえ、『活字や電波その他のメディア』を『携帯電話・スマートフォン、インターネットやSNS』に代えればそのまま現代の若者の性をとりまく環境を指しているようにもとらえられる」(前掲書、ⅰ頁)とみたほうがよいであろう。

つまり、上述の文章が表現しているのは、現実に、若者の性行動が「爆発的にはんらんしている」という実態ではなく、若者の性行動に対する、大人や社会の側からの、漠たる不安である、ということだ。

もっとも、ネットで氾濫するエロ動画や、エロマンガを「誤った性情報」とレッテルを貼り、これに対抗する形で、「正しい性情報」の啓蒙を試みる定形表現が、性教育や性科学の世界に現れたのは、実は長い歴史がある。少なくとも約140年前、明治の文明開化の頃まで遡ることができる。

本稿では、筆者が、ライフワークとして取り組んでいる、明治の性言説、特に造化機論系書物を、山下達郎風に、「棚からひとつかみ」してみよう。