米国一極支配の終焉…?「同盟国・日本」は捨てられるのか

世界の表舞台から退場したがっているが
河東 哲夫 プロフィール

米国は同盟相手を捨てるのか?

10月6日、トランプはシリアの米軍を撤退させると発表した。これは彼の選挙公約なのだが、発表はいかにも唐突で、「米国はこれまでISISを叩くため共に戦ってきたクルド人を見捨てるのか。米国は同盟国も同じように扱うのではないか」という非難と危惧の声を世界で高めることになった。

フランスのマクロン大統領は、これまで米国に協力してきたにもかかわらず、撤兵について事前の通告を受けていなかったことに言及し、「NATOの米欧同盟は『脳死』の状態にある」とまで言った。

さらにトランプは9月25日、ウクライナのゼレンスキー大統領に電話。

ウクライナ政府が、バイデン前副大統領がウクライナとの関係で地位を濫用した(自分の息子をウクライナ企業の取締役に押し込んだ)ことの証拠を自分に渡さなければ、(東ウクライナで親ロシア系勢力と戦うための)兵器供与は行えないということを言った。

ウクライナがロシアの侵略と戦うのを助けるより、自分の大統領選挙の方が大事だというのである。

この2つのことで、トランプの「外交」に対する内外の批判、警戒心は臨界点に達し、米議会は弾劾への動きを強めた。

 

しかし、世界は引っ繰り返っていない。米国の同盟体制、世界への軍の展開は、外交官、軍人、そして予算に支えられていて、トランプの鶴の一声ではなかなか変わらない。

別の言葉で言えば、トランプは政府の内部で十分練り、調整した結果を発表しているのではなく、細部をよく調べもせず、勝手にツィッターで政策をぶち上げるので、実際には実行できない部分が多くなる、ということなのだ。

例えばアフガニスタンからの米軍撤退は、トランプの数度にわたる発言にもかかわらず進んでいないし、シリアでも米軍はクルド系が抑える油田、南部のヨルダンとの国境地帯にそれぞれ200名程の兵力を残している(「BBC.com」10月23日)。

そして東ウクライナでは、トランプ外交の迷走をいいことに、ロシア側勢力がカサにかかってウクライナ側を攻めるようなことはなく、ゼレンスキー大統領が進める両軍引き離しに応じようとしている。

トランプ米国はEUを経済面での競争相手として(と言うか、ドイツがEUの名の後ろに隠れているからだが)EUを敵視し、BREXITをあおるなど、EU弱化のためには努力を惜しまない。

だが、安全保障を司るNATOにおいては、ドイツやフランスの防衛努力が足りないことをなじりつつも、ロシアに近接するバルト諸国、ポーランドやルーマニアへの米軍、その他NATO加盟国軍の配備を増強し、2020年には一説に1個師団分とも言われる大兵力が大西洋を渡る、D-Day並みの大規模演習Defender 2020を行うことを計画している(“Defense News”2019年10月7日“World Socialist Web Site”2019年10月8日)。

中東では、イスラエルのネタニヤフが政権を失ったり、湾岸産原油への米国の依存度が低下したりと、米国の関与を薄める要因が出現しているが、だからと言って対イスラエル支援の弱化や、湾岸地域での米軍のプレゼンスを削減する動きにはなっていない。

そしてアジアでも、トランプは既存の同盟体制を大きく揺さぶるような挙にはまだ出ていない。

北朝鮮の核武装を黙認した上で平和条約を結んだり、中国と適当なところで妥協して米株価の維持をはかるような動きは(まだ)見られないのである。

しかしトランプは、10月24日のペンス副大統領スピーチに見られるような戦略的な考えに基づいて、中国と対立しているわけではない。大統領選をにらんで、北朝鮮や中国と無原則に妥協してしまう可能性は残されている。

世界では、「米国が引いたところ(特に中東とウクライナ)にロシアが乗り出してきている。ロシアの関与なしに中東の問題を解決することはできなくなってしまった」という声が喧しい。

しかしシリアに米軍やISISがいた時は、ロシアも軍を少し置いておくだけでアサド政府から大いに感謝され、世界にも強い印象を与えたが、米軍が去ると、ロシアはシリアを丸抱えで助けてやらざるを得なくなるだろう。

プーチンは柔道の名手。小柄だから相手に押させ、その力を利用して相手を投げ飛ばす戦法の名手なのだが、その相手がいなくなると、自分の非力が身に染みるだけ。自力だけでは大したことはできない。

それは中国も同じことだ。飛ぶ鳥を落とす勢いだった中国の外交も、対米関係悪化を契機とする経済力の低下で、これからはしぼみ気味になるだろう。

そしてインドもブラジルも、経済が伸び悩む。米国の金融バブルが破裂すれば、これら諸国の経済も沈むので、とても米国の覇権に取って代わることはできない。