米国一極支配の終焉…?「同盟国・日本」は捨てられるのか

世界の表舞台から退場したがっているが
河東 哲夫 プロフィール

「国」は惰性

では米国はもうお終いなのか? しかし横須賀や横田の基地に行ってみれば、アメリカ人は以前と変わらぬ様子でそこにいる。巨大な空母、長距離ミサイルを発射できる原潜も停泊している。

つまり、近代の国民国家はそんな簡単には崩壊しない。多くの人間が1つの「国家」という仕組みの中で働き続ければ、その国家はなくならないのである。

筆者が昔、勤務したソ連もそうだった。1991年8月、保守派が焦ってクーデターを起こして(失敗して)いなければ、ソ連は今でも国家連合という形で存続していたことだろう。

ローマ帝国も、4世紀、シルクロードを伝ってやってきた天然痘などの疫病で都市人口の半分を失うような目にあっていなければ(Ian Morri “Why the West Rules”)、その後も続いていたことだろう。

1929年の大恐慌、そして2008年のリーマン金融危機の時も、米国が国家として崩壊したわけではない。

 

今日の米国の場合、当面予想される大きな打撃は、金融バブルの崩壊である。トランプのめちゃな政策(法人税大減税の傍らで国防費を大盤振る舞い、あるいは好況の中での利下げ強要等)のせいで、財政赤字が増大し、金利が高騰しつつある。これは債券市場の崩落を起こして、リーマン危機並みの恐慌をもたらしかねない。

あるいは、民主党の大統領候補のエリザベス・ウォレンの大統領当選が確実になってくると、法人税増税等の彼女の政策は企業の利益率を引き下げるので、株価は半値に落ちてもおかしくない。

そしてウォレンは、銀行が20倍、30倍のレバレッジをかけた金融商品に手を出すのを禁じようとしているので(1929年のグラス・スティーガル法の復活である)、そうなると1990年代の金融規制緩和は振り出しに戻る。

米国は金融バブルという偽りの富を失って(それは今のGDPの20%以上を占めている)、real economyで堅実に生きる国となる。

だがそれは表面的には、GDPが20%以上縮小することを意味し、現実的にはとても取れる政策ではないし、ウォレンの政策は、法律にする段階で議会の抵抗を受けて通らないだろう。

それは別にして、金融バブルが崩壊した場合、「覇権」は中国やロシアに移るだろうか? 

そうはならない。2008年の場合、中国は60兆円分もの内需拡大で一挙に世界の先頭に躍り出たが、その手はもう使えない。財政赤字が年間約40兆円分(野村総合研究所「Financial Information Technology Focus」2016年5月)に達し、対米輸出も急減しているからだ。

だから、米国経済が沈めば、中国経済も共に、いやもっと激しく沈むだろう。ロシアもそうで、世界が不況になれば原油価格が急落するから、ロシア経済はたまったものではない。2009年には、GDPを7.8%減少させている。

一方、米国の金融バブルが破裂しても、ドルは使われ続けるだろう。世界の貿易・金融取引の多くはドルで決済されているので、2008年のリーマン危機の際も、ドルは投げ売りされるどころか世界的にドル不足が生じ、プレミアムをつけて買い集められた。

米国は、ドルをほしいままに増刷し、先進国の中でいち早く景気回復を果たしてしまったのである。

そして米国は、世界最大の輸入国、直接投資の受け入れ国であり続ける。

日本にとっては中国への輸出も大事だが、実は日本から中国に輸出する多額の部品類は、日本、あるいは欧米が中国に輸出した機械によって組み立てられ、その多くは米国に輸出されている。従って、米国は日本にとっても相変わらずダントツの輸出市場なのである。

だからこそ、米国が定めるコンプライアンス規定、あるいは対ロ・対中先端技術の輸出規制などは、日本企業も守らないと、米国がその企業の製品輸入を禁止し、その企業の米国工場の操業を禁止することになる。

ロシアの大企業ルスアルは、ドル決済を禁じられて、一時パニック状態に陥った。こうして経済面での米国の法制の網は、日本、いや全世界の企業に投げかけられ、あたかも世界国家が成立しているかのような様相を見せているのである。

このように、好むと好まざるにかかわらず、米国は当面経済面での覇権を維持するだろう。5G 等で中国が技術面でも米国を抜くとか言われているが、ファーウェイ社は5Gの技術そのものより、5Gのシグナルの伝達をうけおう無線基地、交換機を生産するだけで、5G を実際に利用する技術(自動運転等、まだどの国でも完成していない)では、中国は米国にまだ劣る。

そしてあらゆる工業製品の基礎である半導体の80%をいまだに輸入に頼っている現状では、科学技術の面でも米国を抜くことはできないだろう。