全世界のクリエイターが注視
世界中のクリエイターとよばれる人にとって、なくてはならない企業といえば、その筆頭はアドビ・システムズ(以下アドビ)だ。
あらゆる映画、あらゆるゲーム、あらゆる出版物のなかで、「Photoshop」や「Illustrator」をはじめとするアドビのクリエイティブ・ツールを使っていないものは存在しない。
そんな彼らが催す、クリエイティブ・ツールを主軸とした年次イベントが「Adobe MAX」だ。新機能が毎年、発表され、全世界のクリエイターたちが盛り上がる。今年も11月4日から6日まで、米・ロサンゼルスで開催された同イベントを取材した。
現地取材から明確に見えてきたのは、2つのキーワードだ。
「AIの力」と「ARの台頭」である。

アドビの未来を支える「先生」
壇上で説明された機能のなかでは、なんといっても「Sensei」が大活躍していた。
Senseiとは、アドビが使用しているAI「Adobe Sensei」のことで、語源はもちろん「先生」だ。
この“先生”、いったいなにを教えてくれるのか?
例を挙げよう。
「多数の画像のなかから、リンゴだけを選ぶ」ことは、人間にはたやすいことだ。だが、AIにとって、「1枚の写真から、リンゴが描かれた部分だけを抜き出す」のは、簡単ではなかった。
以前からも、「色が似ている部分をおおまかに抜き出す」といったことは可能だったが、自然に切り出してきちんと編集するためには、人間が「背景なのか、リンゴなのか」を見分け、手作業で切り抜き作業をおこなう必要があった。
それが、Photoshopの最新バージョンを使うことで、「Sensei」がちょうどいい感じにリンゴを切り出してくれる。切り出すために必要な作業は、「ざっくり囲む」だけだ。

スマホやSNS向けの画像加工、どうやっていますか?
この機能は、動画にも使われる。
テレビや映画、パソコンの画面向けに使われる動画は横長の「16対9」という比になっているが、スマホ向けには縦長が求められることが増えているし、SNS向けには正方形が要求されることもある。
だが、撮影に使うカメラは通常、「16対9」のフレームを前提につくられているため、画角のなかにうまく収まるように映像を作成しなければならない。
このとき問題となるのが、スマホやSNS向けに画角の違う映像をつくるための手間暇だ。単に切り出しただけでは、被写体が見切れてしまったりするので、従来は人間が「いい感じに画角に収まるように位置を調整して」動画をつくり直していた。
ここでもやはり、「Sensei」の出番だ。