「偏食」しないでついてきて! 意外と身近な「偏微分方程式」の世界

いつでもあなたのそばに、偏微分方程式
斎藤 恭一 プロフィール

ところがどっこい、化学工学はそんな簡単な学問ではなかった。化学工学の基礎にあたる「移動速度論」と「反応工学」という2つの科目には、どちらも微分方程式がたくさん出てくる。はじめのうちは常微分方程式(微分方程式のうち、変数が1つだけのもの)が中心だったけれども、やがて偏微分方程式(変数が2つも3つもあるもの)が登場してきた。

石油を沸点の差で分離してガソリンや軽油をつくる装置などは、規模が大きくなるにつれ、液体の濃度も温度も流速も装置の中で複雑に分布するようになる。その分布のふるまいを解明しないと、安全に運転できる装置をつくることなどできないのである。

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この濃度、温度、そして流速といったさまざまな物理量が分布した空間(ここでは、装置の内部)こそ、場なのである。こうした物理量が分布している場を解析するための式が偏微分方程式であると私は気づかされたのである。

このように私は、体調がよいときに聴いた講義で偏微分方程式と出会い、友達からの評判を聞いて潜り込んだ講義で場を習い、安易に選択した化学工学コースの講義で場を解析するための偏微分方程式を知ったのである。

数学を、「具体的に」議論する

私はみなさんに、私たちの身の回りの現象を数値で議論するときに(むずかしい言葉で言うなら、定量的議論をするときに)偏微分方程式が役立つということを、ぜひともなっとくしていただきたいと思っている。

私は「数学科の先生が書いた数学の本はわかりやすいはずだ。わからないのは自分の頭がわるいせいだ」と学生の頃思っていた。でもそれは間違いだ。本が私に合っていなかったのだ。みなさんもそう思った方がよい。

数学科の先生の書く本が「偏微分方程式に関する定理を厳密に証明すること」を中心としているのに対抗して、私は「偏微分方程式をつくることと、それを解いた結果を味わうこと」に力を入れてこの本を書いた。

数学の先生と私とでは考え方のベクトルがそもそも違う。具体的な例やイメージをもたない数学に私は興味がない。数学の先生は抽象的、私は具体的だ。数学の先生は数学生活を過ごし、私はせいぜいコンビニで買ったジュース(カゴメ株式会社製)を飲んで“野菜生活”を過ごしている。