その純粋数学の魅力や取り組み方、自身の研究分野である C*環論の一端について慶應大学理工学部数理科学科准教授の勝良健史さんにうかがった。
研究成果は遠い未来に評価されることも
ときに、「この数百年、未解決だった数学の難問がついに解けた!」などとニュースを賑わせることがある。しかし、その難問がいかにして解かれたかを理解するのは、専門家でも難しいとされ、証明が正しいことを精査するには何年もかかることがあるという。
一般にはなかなか理解しにくい純粋数学の世界だが、数学者はどのようにして問題を解いているのだろうか。勝良さんにうかがった。
「もちろん問題を解くことは純粋数学研究の主流ですが、研究をしていく上で価値のある問題を解くという経験はなかなかできません。まだ人類が誰も解いていない問題は、解く価値がないか、それとも解くのが不可能に近い難しい問題かのどちらかであることが多いですからね」

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「また、解くのが難しいからといって価値があるとは限りません。解いた問題や得た結果の価値は、とても長い年月をかけて多くの科学者によって精査されます。抽象的な純粋数学の結果が、100年後や200年後に思ってもみない具体的な形で応用されるなんていうこともあります。
だからこそ、純粋数学の研究者は他人の意見には影響されず、それでいて他人に共感されるような独自の価値観、美的感覚を持つべきだと私は思います」と勝良さんは力説する。
「解くよりも理解」が純粋数学を深める
しかし、問題を解くということが困難なら、そもそも数学者たちは何をどのようにして研究を進めているのだろうか。
「純粋数学の研究では、問題を解く、答えを出すということよりも、不思議な現象を見出し、それを理解するという面の方が強いと私は思います。不思議な現象を見出し理解するためには、対象をよく調査し仮説を立てて、さまざまな実験を通して検証する必要があります。
このようなアプローチは、理工学の他の分野と似ているのではないでしょうか。ただ、対象が数学的対象と呼ばれる抽象的なものであり、実験にコンピュータを使うことが多いとはいえ、思考実験が中心であるという点は純粋数学の特徴だと思います。
また、どんなに成り立っていそうなことでも、きちんと証明ができなければ結果とは言えないのも数学の別の特徴です。証明すべき現象を発見したのに、それを証明できないときは、予想として発表することも数学の重要な研究成果の1つになります。
私も世界の数学研究を引っ張るような予想を発表してみたいですね。もちろん、それを証明できればもっといいのですが」
「集合」した数は「構造」を持つ
目には見えず手で触ることもできない数学的対象をいったいどのようにして調べるのか。キーワードとなるのは集合と構造だと勝良さんは言う。