死体は語る…80代認知症妻を解剖してわかった「厳しい現実」

警察から認知症と聞いていたが…
西尾 元 プロフィール

認知症をめぐる日本の現状

総務省統計局によると、2019年65歳以上の高齢者の割合は28.4%で、100歳以上の高齢者の数は71,274人。日本では確実に高齢化が進んでいる。

それに伴って、認知症を患う人の数も増えている。平成29年度の高齢者白書によると、2012年に認知症の患者は約462万人。65歳以上の高齢者の約7人に1人だった。2025年には、約5人に1人になるとの推計がある。

認知症は今では、だれにも避けることができない問題になっている。

法医解剖にはいくつか種類がある。犯罪性のある遺体は司法解剖になる。損傷の有無や死因、薬毒物摂取の有無などを調べて、遺体が犯罪に巻き込まれて亡くなったのかどうかを調べることが目的である。

犯罪性のない遺体は、承諾解剖される。遺族から承諾書をとって、死因を調査するのである。解剖の種類を問わず、解剖が終われば、遺族に死体検案書を発行する。この書類がなければ、遺体を埋葬(火葬)することができないことになっている。法医解剖は、警察が犯罪捜査をしたり、遺族が葬儀をはじめたりするために行われる。

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法医解剖医のできること

解剖するときには、あまり深く個々の事情を考えないことにしている。考えると辛くなることがわかっているからである。

長年連れ添った認知症の妻を刺すときの夫の心情はいかばかりであったのか。そのようなことを考えていては、解剖の仕事は続けられない。

ただ、解剖していて、死体検案書を書いているだけでよいのだろうか。そう思うことがある。法医解剖の現場には、社会の問題点が死という最も分かりやすい形で現れている。

 

あまりにつらい現実を目の前をしたとき、いつも「なんとかならなかったのか」と思う。亡くなった人の事情はそれぞれで、そこには避けられなかった死もある。

だが、どうにかすれば、避けられた死もあったように思う。

個々の事例を詳しく紹介することはできないが、私のできることは、亡くなった人のことを書いて、こういった死が今の日本の中で実際に起こっているということを一般の人たちに知っておいてもらうことしかない。