死体は語る…80代認知症妻を解剖してわかった「厳しい現実」

警察から認知症と聞いていたが…
西尾 元 プロフィール

お風呂の中で溺死した夫

80代の男性が、解剖室に運ばれてきた。警察の話によると、お風呂の中で亡くなっていたのだという。

皮膚には目立った傷はできていない。解剖をはじめると、死因はすぐにわかった。「溺死」である。

溺死というのは、本来空気で満たされるべき肺の中に水が入ってきて窒息死する死に方である。溺死というと、肺の中は水でいっぱいになっているだろうと思われるかもしれないが、そうではない。むしろ肺は空気だらけになっている。

 

溺れて水が口や鼻から気道に入ってきたとき、肺の中にあった空気の一部は口や鼻から体の外にでていく。だが、入ってきた水の勢いに押されて、肺の奥の方へと追いやられる空気も存在する。肺の一番奥というのは、肉眼で見たときには、肺の表面ということになる。だから、溺死した肺の表面は、空気でプカプカになるのである。

表面が空気でいっぱいになっていて、膨らんだ肺を見つけたとき、死因はおおかた溺死だとわかった。実際に、男性が見つかったのは、お風呂の中なのだから、溺死という死に方もおかしくない。

しかし、なぜ、夫はお風呂の中で溺死したのだろうか。泥酔した後、お風呂で溺死する人は少なくない。意識を失って、溺死してしまうのである。だが、この男性は違っていた。

亡くなっていた現場では、夫は浴槽内で水没していたのだが、その脇には妻がいたのだという。妻は亡くなった夫の遺体と一緒に浴槽に入っていたところを見つかった。

実は、妻は認知症で、妻の入浴を夫が介助していたようだ。何かの拍子に、夫は浴槽内に頭から落ちてしまって、そのまま溺死してしまったことになる。

妻はお風呂から自分で出ることも、外のだれかに連絡することもできなかった。浴槽の中にいる二人を見つけたのは、定期的に家を訪れているケースワーカーの人だった。