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死体は語る…80代認知症妻を解剖してわかった「厳しい現実」

警察から認知症と聞いていたが…

認知症の妻を抱えた夫の無理心中

この日、解剖室に運ばれてきたのは、80代の夫婦──。

警察の話では、心中事件だという。妻は認知症を患っており、夫が介護していた。夫婦は二人暮らし。二人が亡くなっていた部屋には、「ご迷惑をおかけします」と書かれたメモ書きが残されていた。

夫は妻の介護を献身的にしていたようだが、ここ1年くらいは、周りの人に「つらい」と漏らしていたのだそうだ。結局のところ、夫は妻の胸を包丁で刺した。その後、自分で首を吊ったものと思われる。

妻の胸には包丁の傷が残っている。傷は心臓に達しており、死因は「心臓刺創による失血死」とわかった。

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夫の首には、ロープの縄目の痕がしっかり残っている。

まぶたの裏側の結膜には、点状の出血があった。これは「溢血点(いっけつてん)」といわれるものだ。急死した遺体に見られる。

首に残されたロープの痕より頭側の皮膚は赤くうっ血している。

 

首には動脈と静脈があるが、首を吊ったとき、静脈の流れはすぐに止まる。静脈の壁が薄いからである。

それに比べて、動脈の壁は厚い。外から圧迫されても、流れを完全に止めるのは難しい。首にある動脈の中には、頸椎の中を脳へと伸びるものがあり、この部分の動脈の流れは首を吊ってもなかなか止まらない。

その結果、首を圧迫されたとき、脳から心臓へと向かう血液(静脈)の流れは完全に止まる一方で、心臓から脳へ向かう血液(動脈)の流れは不完全ではあっても途絶えることはない。

圧迫されたところより頭側に、血液がたまることになる。頭側の皮膚が赤くうっ血するのは、そのためである。夫の死因は、「縊死(いし)」という。