夜遅くまで自室で仕事をしていたある日、休憩しようとリビングへ降りると、大坂なおみ選手のプレーを「いろいろあったんだろうけれどよく頑張っているよね。とても偉いと思うよ」と言いながら、熱心に観ている父がいた。
「いつもは9時ごろになると上に行っちゃうのに、きょうは夜遅くまで大丈夫なの?」と声をかける。
「この試合が終わったら寝る」
夜更かしをしている子どものような父の答えだった。
コーヒーを淹れながら、熱心に観戦している父の背中を見て、試合が気になりはじめ、お気に入りのパンダのマグカップを片手にテレビの前に座った。
わたしが観はじめたとき、相手選手から反撃にあい、彼女のプレーは少し弱気になっていた。父は「ここで根性を出さなきゃ」とコーチのような口ぶりで画面に語りかける。
彼の叱咤激励が効いたのか、次第に調子を取り戻し、勝利を収めた。
大坂選手の晴れやかな表情を観た父の目には大粒の涙が光っていた。