教育界のトップから「現場」に戻った校長

一緒にパスタを食べた校長はぼくが異動するタイミングを同じくして、定年退職されました。きっと大学の先生か、教育行政の現場に戻っていくのだろうと思っていました。しかし、校長が選んだ道は、予想を遥かに超えたところにありました。

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卒業式を終え、全ての教員の人事を発表した最後に、校長は自らの進退を全教職員に伝えました。

それは、もう一度、学級担任の先生となって教室に戻るというものでした。
ぼくはこの時、ここに真の教育者がいることを強く感じました。そして、この人に育ててもらったことを本当に幸せだと感じました。

校長をつとめ、教育委員会にも入り、教育界のトップランナーの方が、再度学級の担任に戻る。「現場」を大切にし、「現場」がどれだけ大切なものかがわかっている「真の教育者」の姿だった(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock

最後に校長は、悩み、教師を辞めようとまで考えていた新人教師Aさんに向けて言葉を送りました。

「私はもう一度、学級担任に戻ります。今、私は自分自身が担任に戻ると考えた時、みなさんのような担任になれるだろうか、正直不安もあります。でも、もう一度、最初からやり直しだと思っています。だからこそ、Aさんに伝えたい。私もあなたと同じ、もう一度やり直すんだという気持ちで4月から子どもたちと向き合っていきます。だから、あなたももう一度、やり直しなさい。そして、教師として一歩一歩、一緒に歩んでいきましょう。これが、私からの最後の言葉になります」

職員室は、先生たちの涙で溢れました。人に対する、深い、温かい、愛を心で受け止めた瞬間でした。

自分自身を見つめ直すきっかけとなった失敗。しかし、その失敗を成長の糧とする道へと向けてくれた校長。

人生における自らの転機となり、決して忘れることのできない恩師との出会いでした。

(構成・文/島沢優子)

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