戦後の秘蔵資料に垣間見える講談社の「戦争中の責任」に対する葛藤

大衆は神である(75)
魚住 昭 プロフィール

『主婦之友』はあんなことをやって馬鹿だな

同じような認識が戦時中の講談社中枢を担った人々にもあったことが、秘蔵資料の第29巻「現社長は語る」の座談会のやりとりを読むとわかる。そこで、野間省一が『主婦之友』の廃刊撤回にいたる経緯を話すと、元編集局総務部長(役員)の加藤謙一は次のように語りだした。

加藤 僕なんかは『主婦之友』はやめるの当然だと思ったね。「鬼畜米英!」でどのくらいやったかわからないからね。
省一 鬼畜米英を叩き殺せ!(笑声)
加藤 婦女子の雑誌にやっていたからね。講談社は戦意高揚はやりましたけれども、あれほどえげつないやり方はしないですよ。
省一 そのことはやはり節度をもっていたわけで。
加藤 戦意高揚というのは国策にそってやりましたからね。雑誌を見ればわかることですからね。うちのやり方は正道を得ていたわけだ。ところが『主婦之友』は馬鹿に(軍部に)脅しつけられてあんなことをやって馬鹿だなと言っていた。
省一 あれには驚いたですね。毎ページ、ページの上の欄に書いてあるんですよ。鬼畜米英とね。(笑声)
加藤 それだから石川さんもおっかなかったんでしょう。そういうことをやっているから。

ずいぶん手前勝手な言いぐさである。

 

たしかに加藤が言うように、講談社は主婦之友社のように「鬼畜米英を叩き殺せ!」といったスローガンをページの欄外に書きこんだりはしなかったかもしれない。

だが、講談社の『キング』『少年倶楽部』や『若櫻』『海軍』は軍国熱をあおり、少年や青年たちを戦場に駆り立てたのではなかったか。鈴木庫三の圧力に屈して顧問団を受け入れ、法外な顧問料を払ったことは出版社としての「正道」を歩んだと言えるのだろうか。

加藤は『少年倶楽部』の名編集長として日本の出版史に名を遺した男である。しかし、木村毅のように自らの「戦争中の責任」をきちんと見すえる眼は持ち合わせていなかったようだ。