子供の留学費用を稼ぐため、ひとり韓国に残って働く「雁パパ」の悲哀

過度の教育熱が家族を壊す
金 敬哲 プロフィール

雁パパの憂鬱

「雁パパ」は、過度な教育熱が生み出した韓国特有の現象だ。正確な統計はないが、韓国には1万人以上の「雁パパ」がいると言われており、家族と離れて一人で暮らす「雁パパ」には、さまざまな危険が存在する。

 

まず、「雁パパ」には、外国に行った子供の教育費と妻子の生活費が重くのしかかっている。毎月数百万ウォンから数千万ウォンもかかる費用のため、家計が破綻し、サラ金に手を出す「雁パパ」もいる

また、「雁パパ」は家族の解体にもつながる。経済的な負担に劣らず、「雁パパ」を苦しめるのは孤独だ

2015年10月6日、「朝鮮日報」に次のような記事が掲載された。〈8年間、妻と娘に送金し続けた「雁パパ」、離婚裁判勝訴〉という見出しで、内容は次の通りだ。

釜山に住む50代男性A氏は、娘が13歳だった2006年9月、教育のために娘と妻を米国に行かせた。A氏はテコンドー道場を経営しており、教育費と生活費を送り続けてきたが、経済的な負担は耐え難いものになっていった。

A氏は2009年12月、妻に「友達にお金を借りるのも容易ではない。憂鬱で寂しい」と、訴えるメールを送った。2010年3月には韓国に戻ってきてほしいと呼びかけ、翌年の1月にはメールで離婚を求め、帰国を促した。

その後も「健康状態が良くない」「経済事情が苦しい」というメールを送り、妻と娘に帰国するよう依頼した。

2012年3月、妻はA氏に「8000万ウォンくれれば離婚に同意する」というメールを送り、A氏は5000万ウォンを送金した。しかし、妻は帰国の意思はほのめかすものの、その後もさまざまな条件をつけて、結局、昨年6月までおよそ8年間、一度も帰国しなかった。

ついに、A氏は妻を相手どって離婚訴訟を起こし、裁判所は「長期間の別居によりコミュニケーションが不足し、夫婦の絆は失われた。婚姻関係は、これ以上続けられないほど破綻している」と判断、Aさんの離婚請求を認めた。

孤独や経済面のストレスは、ひどい場合は自殺にまでつながる。2013年4月、大邱市内のあるマンションで、歯科医師のB氏(50歳)が練炭を焚いて死亡、遺体で発見された。

B氏は、2003年に米国に渡った娘と妻を、10年間も扶養してきた「雁パパ」だった。警察はB氏が残した遺書の内容から、娘の留学による問題に悩み、自ら命を絶ったものとみなした。

寂しさが募った「雁パパ」たちは、風俗を転々としたり、SNSなどで知り合った未成年者との援助交際に嵌るケースも多い。「雁パパ」が集まる「雁バー」というデートバーが、江南を中心に続々現れているというニュースもあった。

タブロイド週刊紙「日曜新聞」によると、「雁パパ」をターゲットとする「雁バー」は、好みの女性を指名して一対一で酒を飲みながら会話する風俗店で、費用は1時間に10万ウォン程度だという。

「雁パパ」の劣悪な健康状態について報告した研究もある。2012年に発表された「雁パパの健康と生活の予測モデル」(水原大学看護学科チャ・ウンジョン教授)という論文によると、35~59歳の「雁パパ」151人を対象に調査した結果、全体の77・8%が栄養不良に苦しんでいることが分かった。また、調査対象の29・8%は「憂鬱を感じる」と回答した。

「クリスマスやお正月が一番寂しいです。米国にいる家族に電話したいけど、昼夜が逆なので、声が聴きたくても電話できない時が多いです。会いに行きたいのはやまやまだけど、飛行機代を考えるとそう簡単には行けません。一人でご飯を食べているとき、急に涙が出ることもあります」(ソ・チョンテさん)

子供の教育のために我慢を続ける「雁パパ」。その姿は痛ましいほどだ。

「我が子だけは超競争社会の中で生き残ってほしい」という一念で、韓国の親たちは収入の多くを教育費につぎ込む。「超格差社会」の韓国において、「学歴」だけが階層上昇の手段だからだ。そして、こうしたサバイバル競争は、すべての世代で激しさを増している。『韓国 行き過ぎた資本主義』に描かれているのは、「無限競争社会」韓国のありのままの姿なのだ。

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