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子供の留学費用を稼ぐため、ひとり韓国に残って働く「雁パパ」の悲哀

過度の教育熱が家族を壊す
「超学歴社会」の韓国では、まだ幼い子供たちを海外で学ばせる「早期留学」が盛んだ。子供の世話のため、母親が同行することも多い。その教育費や生活費を賄うため、ひとり韓国に残って働く父親「雁パパ」の実態を、前回前々回に続き、ソウル在住のジャーナリスト・金敬哲氏の近刊『韓国 行き過ぎた資本主義』から紹介する。

雁パパ、鷲パパ、ペンギンパパ

政府傘下の技術研究所のチーム長として勤務するソ・チョンテさん(50歳)は、いわゆる「雁パパ(キロギアッパ)」だ。4年前、中学2年生の息子を米国に留学させ、2年前には息子の世話のため妻まで米国に渡っている。

 

「『息子が米国の生活に馴染めないようなので私も行きたい』と妻が言い出しました。初めは反対したのですが、息子が大変だというのでしぶしぶ認めました。『親は子に勝てない』という言葉もあるじゃないですか。家を売って、そのお金で妻を米国へ行かせました」

「雁パパ」とは、子供の教育のために、妻と子供を外国に行かせ、自分は韓国に残って教育費や生活費を送金する父親を指す言葉だ。父が一人で韓国に残って働き、ときどき家族に会うため海外へ飛んでいくことを、渡り鳥である雁に喩えた表現である。

「雁パパ」は、早期留学の流行が生み出した現象だ。1990年代初め、江南地域の富裕層を中心に英語教育ブームが巻き起こった。彼らはまだ幼い子供たちを米国に留学させ、英語の勉強をさせた。米国の大学の授業について行けるくらいの英語力を身につけさせるためだ。しかし、まだ幼い子供を一人で留学させるのは心配だから、母親が同行し、父親は韓国に残って留学費用を稼がなければならない。

1990年代半ばになると、早期留学は中流層にまで広がり始めた。「雁パパ」という単語は国語辞典にも掲載されるようになり、すっかり市民権を獲得した。

今は、韓国の高い教育費に耐えきれず、教育費の安いフィリピンや中国などアジア諸国に早期留学させるケースも増え、平凡なサラリーマンも「雁パパ」の仲間入りを果たすようになった。

また、妻と子供をソウルに送り、地元に一人で残って金を稼ぐ父親や、名門学習塾が集まっている江南に妻と子供を送り、自分は江北で一人暮らしする父親を指す「ローカル雁パパ」という言葉も登場した。

「私は、準公務員なので月給はさほど高くありません。あれこれ税金を引かれて、ひと月の手取りは500万ウォンちょっとですが、全額米国に送金しています。ソウルにあった家を売り払った金で、米国に小さな家を買いました。おかげで家賃がかからない分、生活費は安く済んでいます。

まわりの雁パパに聞くと、米国に留学させた場合は、普通ひと月に1000万ウォン以上送金しているみたいです。家賃がかからないとはいえ、うちは500万ウォンから学費と生活費を払わなければならないのだから、妻は大変でしょうね。いつも妻と子供には申し訳ないと思っています」

ソさんは、自分の生活費はアルバイトでまかなっている。ソウル大学で博士号を取得し、技術特許をいくつも持っている一流エンジニアのソさんだから、できることだ。

「依頼を受けて、大学や会社で講義をしています。また、学生の論文の審査を行ったり、親しい教授のプロジェクトを手伝ったりして金を稼いでいます。1ヵ月に100万ウォンほど入るので、十分ではないが生活に問題はありません」

ソさんは、会社近くのワンルームで暮らしている。30平米に満たない小さな部屋で、1ヵ月の家賃は50万ウォン。食事はほとんどコンビニのおにぎりとカップラーメンで済ませている。少しでも生活費を切り詰めて、米国に送金したいからだ。

「いちばん嬉しいのはボーナスが出た時です。昨年末は、私が持っている特許に対してボーナスが手厚く出ました。数千万ウォンのボーナスを送金した時は、自然と笑いが出ました」

「雁パパ」が一般的になったことで、「雁パパ」の中でも階級が生まれるようになった。いつでも海外へ会いに行ける財力のある父は、「鷲パパ(トクスリアッパ)」と呼ばれる。

一方、給料のほとんどを送金し、飛行機代がなくて海外へ飛べない父のことは、「ペンギンパパ(ペンギンアッパ)」という。ペンギンの、自分を犠牲にしても子供を守る強い父性と、飛べないことをかけた言葉だ。