古くから中国やポルトガル、オランダなど諸外国との交易の場として栄え、長崎初のキリスト教伝来の地でもある、平戸。日本と海外の空気が混ざり合った独自の文化と美しい自然が共存するこの土地をデザイナー・スタイリストの大橋利枝子さんと一緒に巡りました。
独自の砂糖菓子文化を
育んだ、お菓子の町。
平戸は異国から受けた影響を元に独自の食文化を育んできた。とりわけここで生まれた砂糖菓子はユニークだ。日本の玄関口として栄えた時代、平戸にはパンやビールなどさまざまな外国の食べ物が日本初上陸を果たしたのだが、その一つに白砂糖があった。だから砂糖を使った菓子が日本のどこよりも早く発展したのだ。
しかも、前述の「烏羽玉」を作った松浦熈公はかなりの甘党で、地元の菓子職人に100種類の菓子を作ることを命じ、そのレシピを6年かけて一冊の図鑑『百菓之図』にまとめたという偉業を持つ。
その図鑑には和菓子だけではなく、ヨーロッパなどの影響を受けたお菓子もたくさん描かれていて、平戸のグローバルな一面が窺い知れる。ただし、当時は砂糖が貴重な時代。菓子の多くは平戸藩門外不出として、お殿様だけしか食べられない幻の味だったという。
『百菓之図』は今でも〈松浦史料博物館〉で大事に保管されていて、閑雲亭で食べた「烏羽玉」は平戸の菓子職人が当時のレシピを参考に復元したもの。長い時間を経て、ようやく私たちも食べられるようになったのだと思うと感慨深い。
平戸の砂糖菓子を語る上で欠かせないものがもう一つ。それが「カスドース」。名前の響きは「カステラ」と似ているが、ちょっと違う。焼きあがったカステラを小さく切り分けて卵黄にくぐらせ、煮立たせた糖蜜で揚げ、表面にたっぷりとグラニュー糖をまぶしたもの。食感は軽いのだが、甘さはかなり濃厚。当時の贅沢品であった卵と砂糖をふんだんに使った「カスドース」も松浦家のお留め菓子として愛されていた。
ちなみにこの「カスドース」を作っている老舗の菓子店〈湖月堂老舗〉は平戸大橋を渡ってすぐの〈平戸物産館〉の一角にある。大橋さんは当初、「カスドース」を買うために立ち寄ったつもりだったが、あご(トビウオ)だしや海水で作った天然塩など平戸の名産品がずらりと並んだ棚を見ていると、急に買い物スイッチがオン。あっちの棚、こっちの棚へと移動して、気づくと手にはたくさんのご当地食品が抱えられていた。
「“出合ったときに買う”が私の旅のルール。買っておけばよかったって後悔したくないんですよ」
と、笑顔で束の間の買い物を楽しみ、引き続き、市街へ移動して甘いもの探しへ。