古くから中国やポルトガル、オランダなど諸外国との交易の場として栄え、長崎初のキリスト教伝来の地でもある、平戸。日本と海外の空気が混ざり合った独自の文化と美しい自然が共存するこの土地をデザイナー・スタイリストの大橋利枝子さんと一緒に巡りました。

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独自の砂糖菓子文化を
育んだ、お菓子の町。

まん丸のお茶菓子「烏羽玉」。黒ごま入りのこし餡を求肥で包んで和三盆をまぶしている。/松浦史料博物館(閑雲亭) 長崎県平戸市鏡川町12 ☎0950-22-2236

平戸は異国から受けた影響を元に独自の食文化を育んできた。とりわけここで生まれた砂糖菓子はユニークだ。日本の玄関口として栄えた時代、平戸にはパンやビールなどさまざまな外国の食べ物が日本初上陸を果たしたのだが、その一つに白砂糖があった。だから砂糖を使った菓子が日本のどこよりも早く発展したのだ。

しかも、前述の「烏羽玉」を作った松浦熈公はかなりの甘党で、地元の菓子職人に100種類の菓子を作ることを命じ、そのレシピを6年かけて一冊の図鑑『百菓之図』にまとめたという偉業を持つ。

その図鑑には和菓子だけではなく、ヨーロッパなどの影響を受けたお菓子もたくさん描かれていて、平戸のグローバルな一面が窺い知れる。ただし、当時は砂糖が貴重な時代。菓子の多くは平戸藩門外不出として、お殿様だけしか食べられない幻の味だったという。

『百菓之図』は今でも〈松浦史料博物館〉で大事に保管されていて、閑雲亭で食べた「烏羽玉」は平戸の菓子職人が当時のレシピを参考に復元したもの。長い時間を経て、ようやく私たちも食べられるようになったのだと思うと感慨深い。

〈湖月堂老舗〉のカスドース。
〈平戸蔦屋〉のカスドース。通称“カステラのフレンチトースト”とも。/平戸蔦屋 本店 按針の館 長崎県平戸市木引田町431 ☎0950-23-8000

平戸の砂糖菓子を語る上で欠かせないものがもう一つ。それが「カスドース」。名前の響きは「カステラ」と似ているが、ちょっと違う。焼きあがったカステラを小さく切り分けて卵黄にくぐらせ、煮立たせた糖蜜で揚げ、表面にたっぷりとグラニュー糖をまぶしたもの。食感は軽いのだが、甘さはかなり濃厚。当時の贅沢品であった卵と砂糖をふんだんに使った「カスドース」も松浦家のお留め菓子として愛されていた。

昭和初期にカスドースを復活させた〈湖月堂老舗〉の前で。/平戸物産館(湖月堂老舗) 長崎県平戸市岩の上町1247-2 ☎0950-22-2063

ちなみにこの「カスドース」を作っている老舗の菓子店〈湖月堂老舗〉は平戸大橋を渡ってすぐの〈平戸物産館〉の一角にある。大橋さんは当初、「カスドース」を買うために立ち寄ったつもりだったが、あご(トビウオ)だしや海水で作った天然塩など平戸の名産品がずらりと並んだ棚を見ていると、急に買い物スイッチがオン。あっちの棚、こっちの棚へと移動して、気づくと手にはたくさんのご当地食品が抱えられていた。

生月島の観光案内所で購入した〈塩炊き屋〉の天然塩「海の子」。鹿島浜の海水を釜炊きにしてできた塩。数十種類のミネラルを豊富に含む。

「“出合ったときに買う”が私の旅のルール。買っておけばよかったって後悔したくないんですよ」

と、笑顔で束の間の買い物を楽しみ、引き続き、市街へ移動して甘いもの探しへ。