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川端康成、柴田錬三郎…大御所と呼ばれる作家たちの「スゴイ文章力」

作家・宮城谷昌光の人生最高の10冊

名作から学んだ「書く技術」

幼少期は小説が嫌いで、人に自慢できるような読書経験はありませんでした。しかし、中学2年生の時に偶然『剣は知っていた』を読んだことが、大きな転機になりました。

戦国時代を舞台に、美貌の剣士の半生を描いた時代小説ですが、物語の面白さはもちろん、文章を書く技術を学んだことが大きかったのです。

具体的に言えば、コントラストの活かし方です。大きいものを描写するときはどこかで小さいものを出して、明るさを出すためにはどこかで暗さや闇を出す。同一人物であっても、光の中と闇の中では違うように感じられる。目に見えるものを足掛かりに、人間の多様性を見事に描いています。

 

「眠狂四郎」シリーズからもわかりますが、柴田作品はどれを読んでもイメージが鮮やかで、あいまいさがない。私はこの本をまねして小説を書いてみたのですが、クラスメートも面白いと言ってくれました。

これが、自分が物書きを目指す入り口でした。

大和路・信濃路』は『風立ちぬ』などで知られる堀辰雄さんのエッセイです。堀さんには生と死を見つめる内容の小説が多いですが、ご自身が長年肺結核を病まれていて、死を日常的に意識されていました。

「信濃路」は奥さんと長野県へ行った旅行記で、長年病身の堀さんを支えられてきた奥さんとの絆が伝わってきます。

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印象に残っているのは、車窓に白いものが映ったので見てみると、こぶしの花が咲いていたという描写です。その描写は鮮やかで、こぶしの花の白さには、夫婦にとっての「光」の意味が込められているのではないかと感じました。

死と隣り合わせの生活の中にも、ふたりが確かな希望を持って生きていることが、この文章には込められているように思いました。

「大和路」は堀さんがひとりで奈良周辺をめぐるという内容です。古い寺をめぐって、夕暮れにぼーっとするような大らかな感じで、読んでいて心地よかったのです。