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中世、お洒落なフランス人ほど「カツラ」を被った、ある合理的な理由

ハゲのほうが大歓迎?!

上流階級で大流行ののちに

近年は「つむじも分け目も自然な仕上がり」などと謳う商品も登場しているカツラ。こうしたコピーが示すように、多くの現代人は、カツラを被っていることを周りには隠したいと思っている。

しかし、過去にはカツラこそがステータスの証とされ、人々がカツラを装着した姿を見せびらかしていた時代があった。17世紀から18世紀にかけての時期だ。当時のヨーロッパでは、上流階級の人々の間で、カツラを被るスタイルが大流行した。

その頃は長髪のヘアスタイルがおしゃれだとされていたのである。モーツァルトやバッハといった、この時代に活躍した音楽家たちの肖像画を思い浮かべていただきたい。彼らのようなボリューミーな白髪をカールさせた髪形が、当時の流行の最先端だったのだ。あのヘアスタイルは自毛ではなく、まさにカツラによって実現されていた。

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彼らはなぜ自毛ではなくカツラであの髪形を維持していたのか。あそこまで髪を伸ばすのが大変……という事情もあったが、いちばんの理由は毛じらみ対策のためだ。

 

当時のヨーロッパは衛生環境が悪く、すぐに毛じらみがわいてしまう。そのため長髪を維持することは容易ではなかった。しかし、長髪をカツラで再現することで、自毛は短く剃ることができ、頭の手入れが簡単になる。このような合理的な理由から、カツラが愛用されるようになったのだ。

流行の波は庶民にも押し寄せた。18世紀イギリスの記録によると、大工や農民といった人々の間にもカツラが普及し、彼らはわざわざカツラを被ったまま仕事をしていた。

また、同じ時期のフランスでは、成人後に自毛で過ごすことがマナー違反とされ、非難の的になっていたという記録もある。カツラを着用することがおしゃれを通り越し、礼儀とされた時期もあるとは驚きだ。人々は寝る時以外はカツラをし、まさに身体の一部として考えていたのである。

流行は繰り返すと言われる。またいつか、大きなカツラを被ることがおしゃれ、という時代がくるかもしれない。(富)

『週刊現代』2019年11月2・9日号より